伊藤晴雨の肉筆画10点見つかる こんにゃくえんま、猫又橋…昔の文京区を生き生き描写 根津小学校の倉庫から

2022年5月11日 16時30分

にぎやかな境内の光景が描かれている、伊藤晴雨の「こんにゃくえんま」

 明治から昭和にかけて人気を博した日本画家・伊藤晴雨(1882~1961年)の肉筆画10点が、東京都文京区立根津小学校(四家しけ薫校長)に保管されていることが分かった。地域史を研究する早川義郎さん(86)、由紀子さん(79)夫妻が存在を指摘し、学校側が倉庫を調べて見つけた。多くは区にゆかりのある祭りや名所、物語の場面などが描かれている。実物を確認した文京ふるさと歴史館専門員の加藤芳典さん(44)は「保存状態がよく、今はなくなった昔の文京を知る貴重な資料」と評価している。(加古陽治、写真も)

いとう・せいう 東京・下町の彫金師の家に生まれる。12歳で象牙彫刻師のもとに奉公に出されたが、年季が明けると絵で身を立てることを決意。芝居小屋の看板描きから始め、新聞の挿絵画家となった。劇評や時代考証の分野でも活躍し、歌舞伎役者や落語家と交流。縛られた女性を描く「責め絵」や幽霊画を得意とし、「キャバレー王」と呼ばれた故福富太郎さんやスタジオジブリ代表の鈴木敏夫さんが収集するなど、今でもファンが多い。文京区に長く暮らし、地域の絵も多く残した。

◆存在が忘れられていた

 見つかったのは、根津神社祭礼、こんにゃくえんま祭礼、駒込富士神社夜景、駒込大観音、猫又橋、江戸川橋の桜、大洗堰おおあらいぜき、朝妻船、八百屋お七、にごりえ(樋口一葉の小説)の10点。大きさはいずれも縦40.5センチ、横58.5センチほど。

田園地帯を清流が流れるいにしえの光景が描かれている、伊藤晴雨の「猫又橋」

 夜景や祭礼などは、訪れた人々でにぎわう様子や参道の店が色鮮やかに活写され、「猫又橋」では田園地帯を千川(小石川)が流れる、失われた風景が描かれている。「にごりえ」では「明治40年頃、まだ2軒程残りし銘酒屋」の店構えや客の様子が分かる。

東京都文京区立根津小学校で見つかった伊藤晴雨の肉筆画。左は樋口一葉「にごりえ」の一場面

 いずれも数十年前の区の文化財調査で一度は確認されていたが、倉庫にしまわれたまま存在が忘れ去られていた。絵はすべて額装され、裏側のラベルに昭和27(1952)年の寄贈と書かれている。
 晴雨は生前、区内の駒込動坂町(今の千駄木)に暮らし、地域紙に「文京区絵物語」を連載しているが、見つかった作品は、連載の挿絵とは別のものだった。根津小に寄贈された経緯ははっきりしない。

伊藤晴雨の肉筆画が見つかった東京都文京区立根津小学校の四家薫校長

 早川由紀子さんは、文化財調査に携わった故戸畑忠政氏が主宰していた歴史研究サークル「いてふの会」のメンバーで、戸畑氏から根津小に晴雨の絵があると聞いていたという。
 四家校長は「横向きにしまわれていて、まったく気づきませんでした。まさか学校に価値のある絵が眠っているとは思わず驚きましたが、見つかって良かったです」と話している。

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