「治安維持法が衣替えして復活している」…逮捕された100歳の生き証人が謝罪と賠償を求め続ける理由とは

2022年5月12日 06時00分
 戦前、思想・言論弾圧に利用された治安維持法で逮捕された北海道旭川市の菱谷ひしや良一さん(100歳)が11日、支援者とともに国会を訪れ、同法を悪法と認め、弾圧の被害者に謝罪や賠償をするよう国会議員に要請した。10万人超とも言われる被害者は年々減り、菱谷さんは数少ない生存者の一人で、「最後の生き証人」とも呼ばれる。「平和で自由な社会のため、できる限り運動する」と誓った。(加藤益丈)

 治安維持法 皇室や私有財産制度を否定する共産主義活動を取り締まるため、1925(大正14)年に制定された。28年に最高刑が死刑となり、41年には対象を政府に批判的な言論や活動全体に拡大した。終戦後の45年10月に廃止された。

治安維持法被害者の国家賠償を求める集会で発言する菱谷良一さん。絵は釈放後に菱谷さんが描いたもの=11日、東京・永田町の衆院第一議員会館で

 菱谷さんが逮捕されたのは、旭川師範学校の生徒だった1941年9月。人々の暮らしを写実的に描く教育運動が「資本主義の矛盾を自覚させ、共産主義を広めかねない」とされ、教師や美術部員ら27人が逮捕された「生活図画ずが事件」に、共産党も共産主義も知らなかった19歳の青年が巻き込まれた。
 「何が何だか分からないまま捕まり、自白調書を作られて起訴され、そのまま収監され、1年3カ月、時に零下30度になる独居房で過ごした」。11日、国会議員への要請に先立って東京・永田町の衆院第1議員会館で開かれた集会で過酷な体験を語り「自由の身になった後も、世間から『アカ』と言われ、日陰者として生活した」と声を詰まらせた。
 長年、弾圧の体験について沈黙を貫いたが、2012年の第2次安倍内閣発足後、「共謀罪」(テロ等準備罪)の趣旨を含む改正組織犯罪処罰法や、特定秘密保護法などが成立し「治安維持法が衣替えして復活しているようだ」と感じ、積極的に語るようになった。

治安維持法の被害者に対する国家賠償を求める集会で話す菱谷良一さん(左)と支援者の東京芸大非常勤講師の川嶋均さん

 菱谷さんらは、国に対し、治安維持法が人道に反する悪法だったことを認め、謝罪や賠償、犠牲者の調査を求めている。だが反応がないどころか、共謀罪の審議中だった17年6月、金田勝年法相(当時)が国会で治安維持法について「適法に制定され、刑の執行も適法」と正当化する答弁をし、不安は増すばかりだ。
 17年5月、共謀罪の衆議院採決を前に一緒に記者会見した弾圧経験者4人のうち、千葉県船橋市の杉浦正男さんは20年1月に105歳で、菱谷さんの同級生で共に生活図画事件で弾圧された北海道音更町の松本五郎さんは同年10月に99歳で死亡した。
 「無二の親友だった」という松本さんから「俺の分も頑張ってくれ」と託されたという菱谷さん。高齢のため、今後も上京できるか分からない。今回が最後のつもりで国会議員に思いをぶつけた。
 ロシアによるウクライナ侵攻をきっかけに、国内でも防衛費をGDP比2%に増やす議論が行われているが、菱谷さんの立場は明快だ。「2%も3%も反対。憲法9条を守り、不戦の誓いを守ってほしい」

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