「選別収容所」では地面に掘った穴で用を足した…マリウポリからの強制連行を逃れたウクライナ男性の逃避行

2022年5月12日 06時00分
 ウクライナ南東部の要衝マリウポリで拘束され、ロシア軍の強制連行から逃れた男性(58)が、ウクライナ軍・政府に近い人物をあぶり出す「選別収容所(フィルター・キャンプ)」の実態を本紙に語った。男性と家族は収容所を転々とした後、ロシア国内に連行されており、ロシア軍による戦争犯罪を裏付ける証言として注目される。(ワシントン・吉田通夫)

ウクライナ南東部マリウポリで、避難所の地上にあった集合住宅。砲撃で破壊された=ウラジミルさん提供

 この男性はマリウポリ出身の鉄工作業員ウラジミルさんで、オンライン取材で語ってくれた。
 ロシア軍がウクライナに侵攻した2月24日以降、激しい砲撃や戦闘に巻き込まれ、パートナーのクセニアさん(45)と息子(20)、母親(81)とアゾフスターリ製鉄所近くに避難。橋が崩落してロシア側にしか逃げられず、4月3日に検問所で拘束された。

◆服脱がされ、軍人かどうか調べられた

 ロシア軍はまず、製鉄所から東に約25キロの町ベジメンネに連行。収容所として使われていた学校の一室で、ロシア兵に服を脱がされ軍人特有の痕跡がないか調べられた。ウクライナ軍との関係、ロシアをどう考えているかなどの尋問を受け、携帯電話の連絡先やメールも調べられた。
 数日後には北に75キロのドクチャエフスクにある文化センターに連れて行かれ3日間にわたり同様の「選別」を受けた。収容所の環境は劣悪。食事で体調を崩す人が多く、地面に掘った穴で用を足した。携帯電話を渡さずに銃殺された高齢者の話を聞いたという。
 4月10日に3カ所目の収容所としてロシア西部タガンログに連行された際、混乱に乗じて逃走。電車でロシア国内を北上し、サンクトペテルブルクからワルシャワに出国した。現在はドイツ西部トリーアの避難所に滞在している。
 マリウポリ市長は同18日、市民約4万人がロシア側に連行されたと発表していた。欧州安保協力機構(OSCE)のカーペンター米大使は5月2日の会見でマリウポリ周辺などに多数の「選別収容所」があると指摘している。
 ウラジミルさんは「プーチン(大統領)はウクライナを『兄弟』と呼びながら、なぜ非道な仕打ちができるのか」と憤る。ウクライナ政府や軍との関係が疑われた市民の行方は「分からない」と語った。
 カーペンター大使は「(ロシア軍の行為は)国際人道法違反であり、戦争犯罪として監視する」と断言している。

◆侵攻で一変…詳細に振り返る壮絶な避難劇

 ウクライナ南東部マリウポリでロシア軍の猛攻に遭い、拘束後に「選別収容所」に強制連行されたウラジミルさん(58)が、壮絶な避難劇を詳細に振り返った。
 ■侵攻前
 「1964年にマリウポリで生まれた。2010年までアゾフスターリ製鉄所などで働き、その後はロシアやポーランド、フィンランドで鉄工関係の仕事をして、21年8月にマリウポリに戻った」
 「昨年からロシアが軍部隊を国境周辺に集めていたことは報じられていたが、演習か何かのためだと思っていた。本当に戦争が起こるとは考えていなかった。母(81)はロシア出身。ロシアに親戚もいて、侵攻が始まる前は、ロシアについて考えたこともなかった」
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