高齢者の減薬、改善効果は 首都圏の老人ホームと専門家が取り組み

2020年3月1日 02時00分

プロジェクトを取りまとめる「らいふ」取締役の小林司さん=東京都品川区で

 多数の薬を服用することにより、転倒や記憶障害など有害な症状が現れるポリファーマシー(多剤投与)が社会問題となる中、首都圏で老人ホームを運営する「らいふ」(東京都品川区)が専門家と協力し、二千人超の入居者を対象に「減薬」の効果を検証する取り組みを続けている。服用する薬の種類を減らしたり、副作用を考えて変更したりすることで、認知機能や生活の質(QOL)が改善するかどうかを調べている。 (藤川大樹)
 らいふの小林司取締役は「最終分析ではないが、現場の感覚では、入居者のおよそ三割で状態が良くなっている」と話している。
 らいふは東京、神奈川、千葉、埼玉の一都三県で計四十八の老人ホームなどを運営。入居者は昨年七月現在二千三百八十三人で、平均年齢は八七・六歳。およそ七割が認知症を患っており、毎回の食事の際、平均で七・二剤の薬を服用しているという。
 減薬の取り組みは入居者の家族らに説明した上で、二〇一八年十二月から各施設で段階的に始め、「たかせクリニック」(東京都大田区)の高瀬義昌理事長が監修する。日本老年医学会や厚生労働省のガイドラインを基に薬の適正な処方の方針を作成。方針に基づき各施設を訪問する薬剤師らが処方の変更を提案、主治医が患者の状態などを判断して処方を検討する。
 一般的に六種類以上の薬を服用すると、有害リスクが増えるとされ、入居者が六種類以上を飲んでいる場合は薬の量を減らせないか検討するという。
 らいふでは三カ月ごとに全入居者の薬剤情報や認知機能、QOLのデータを記録。それを東京大大学院薬学系研究科の五十嵐中(あたる)客員准教授らの研究チームが解析し、減薬や薬の変更が認知機能やQOL、日常生活活動度(ADL)に及ぼす影響を調べている。
 例えばQOLでは、移動の程度や身の回りの管理、不安やふさぎ込みなど五項目を評価して点数化する。五十嵐さんは「現在データを集計中だが、減薬をしてもQOLやADLが悪化しないという結果が見込めそうだ」と話す。
 らいふの小林さんは「介護保険料や健康保険料、職員の労働時間(生産性)などがどう変わったかも調べていきたい」と話している。

◆「わめき・トラブル減った」 介護現場に光

プロジェクトを監修する「たかせクリニック」の高瀬義昌理事長=大田区で

 「認知症が改善した」「暴れたり、わめいたりすることがなくなった」-。「らいふ」が運営する老人施設では、減薬の効果とみられる改善例が報告され、介護にあたる職員の負担も軽減されている。
 東京都世田谷区の老人ホームに入居する八十八歳の男性は、車イスから立ち上がり徘徊(はいかい)し、歩行が不安定で転倒のリスクが高かった。認知症を患い、他の入居者に「君は誰だ」と怒鳴るなど興奮状態が繰り返されていた。
 男性は五種類の薬を服用していたが、二種類に減らした。抗不安薬を徐々に減量して別の薬に変更。二種類併用していた抗認知症薬も一種類にした。一カ月で対人トラブルがなくなり認知症に伴う不安などの症状にも改善がみられた。
 夜間に廊下をはいずり、他の入居者の部屋に入って奇声を上げる症状がみられた九十一歳の女性も抗不安薬を変更し別の抗精神病薬を中止すると、夜間のはいずりや奇声がなくなり、日中も落ち着いて車イスで過ごすようになった。
 入居者は睡眠薬や抗不安薬が長期処方されていたり、複数の病院から胃薬や鎮痛剤を重複して処方されているケースが散見されるという。
 取り組みを監修するたかせクリニックの高瀬さんは「高齢者は多剤併用によって副作用が起きやすく、ふらつきや転倒、せん妄などの副作用が起きにくい薬に変更している」と説明。「減薬によって生活の質や活動が改善し言葉の数が増え、コミュニケーションが良くなることもある。本人だけでなく家族の笑顔も増える」と話している。

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