新宿ゴールデン街近くの神社に唐十郎ゆかりの紅テント「挫折した若者が夢を託した」野外演劇、今年も開幕
2022年5月12日 18時00分
東京・新宿ゴールデン街にほど近い花園神社境内に今年も真っ赤なテントが現れた。劇作家の唐十郎さん(82)が創始した野外演劇「紅 テント」の初夏恒例の公演だ。新型コロナウイルス禍で3密回避が求められる中、密閉・密集・密接の熱狂こそが魅力のテント芝居も一部公演が中止になったが、後継劇団が唐さんの魂を継承している。(竹島勇)
◆「屋台崩し」に大きな拍手
7日、初日の幕が上がった劇団唐組の「おちょこの傘持つメリー・ポピンズ」。唐組の前身「状況劇場」時代の1976年に初演された。10年前から療養中の唐さんの姿はないが、唐組の代名詞ともいえる激しくも詩情を帯びた台詞 が飛び交う。舞台奥の幕を外して境内の風景と一体化するおなじみの「屋台崩し」でフィナーレを迎えると、会場は大きな拍手で包まれた。
高さ4メートル、床面積190平方メートルのテントは団員らが3日間かけて設営した。コロナ対策で席間を空けながらも200人が収容できる。
◆聖と俗が交差する祈りの場所に
紅テントの歴史は67年8月、状況劇場の公演から始まった。「芝居は劇場でやるもの」との常識を覆そうと、野外劇を模索していた唐さんが、聖と俗が交差する繁華街の祈りの場所に目を付けた。初演のタイトルは「月笛お仙・義理人情いろはにほへと篇 」。もともとは「腰巻 お仙—」だったが、エロチックな印象に神社側からクレームがつき、改題を迫られた。
唐さんらと初演の舞台に立った俳優大久保鷹 さん(78)は振り返る。「自分たちでくいを打ち、舞台を作るところから芝居が始まるのは強烈な体験だった。60年の日米安保闘争で挫折した若者が夢を託した」
花園神社の近くにあった実験的な映画館などとともに新宿アングラ文化をけん引するが、有名になるにつれ、白塗りして半裸で演じる俳優たちへの嫌悪感が広がる。「公序良俗に反する」との声に押され、公演を断念したこともあった。
◆コロナ禍で公演中止も
花園神社のテント芝居は67、68年の2年間でいったん途絶えたが、79年に復活。88年の状況劇場解散後は後継劇団の唐組が引き継ぎ、新宿の風物詩として定着した。
コロナ禍では曲折があった。花園神社のテント芝居は例年、唐組の公演が終われば、「新宿梁山泊 」の「紫テント」に引き継がれ、7月になれば「椿 組」の野外劇がある。コロナ流行1年目の2020年は、3劇団が足並みをそろえて公演を中止した。
今年はテント芝居の初演から55年。アングラ演劇に詳しい近畿大文芸学部の梅山いつき准教授は「共感する人が集まるゴールデン街の隣で、権威を嫌い自由な表現を求める若者文化の街という新宿のイメージをつくり上げてきた」と評価する。
「おちょこの傘持つメリー・ポピンズ」は花園神社で6月5日まで断続的に上演。チケットなどの問い合わせは唐組=電03(6913)9225=へ。
【関連記事】<首都残景>花園神社 芸能の神に見守られて
おすすめ情報