<わけあり記者がいく>動けなくなった人を見かけたら 「お困りですか?」声掛けて

2022年5月13日 10時13分

三浦記者が使っているペーシングボード。指やぺンなどでたたきリズムをつくりながら話すと言葉がはっきりする

 「わけあり記者」こと私、三浦耕喜(52)のもとに、読者からご質問が届いた。前回(四月十三日)、難病患者や障害者が外出中に、体が動かなくなるなどピンチに陥った際、どうSOSを発信するか、自身の体験を含めて考察したのだが、読者は問うた。
 「では、三浦さんのように立ったまま動けなくなった人に気付いたら、どうしてあげればいいのですか」
 優しいお尋ねだ。今回はスマホの活用法をと考えていたが、ご質問は明日にでも起こり得る緊急性の高い内容だ。先にこちらにお答えすることをお許しいただきたい。
 私の個人的経験だが、まず「何かお困りですか?」と声を掛けてもらうとありがたい。脳・神経系の病は精神状態によっても症状が変化する。安心感を与えられれば、半分解決したようなものだ。
 ただ、この時、後ろからだとびっくりしたり、振り向こうと無理な姿勢でバランスを崩したりする場合もある。前か横についてもらえたら、本人の表情も見られ、問い掛けに反応しているか分かる。その際、胸の動きから呼吸をしているかどうか、目は動いているかも確認してほしい。
 本人のうめき声が聞こえるなら、会話できるかもしれない。本人が「ペーシングボード」を使っていたら比較的はっきり話せるが、口の中が乾いていたり、逆に唾液がたまっていたりして発音しにくいこともある。返事をせかさず、「ゆっくりでいいですよ」との余裕がほしい。
 質問は「イエス・ノー」で答えられるように。「ご家族に連絡しましょうか」「連絡先をお持ちですか」「かばんの中を見ていいですか」といった具合だ。もちろん、前回紹介した「ヘルプマーク・ヘルプカード」をかばんやつえにつけていないかも要チェックだ。
 同時に、本人を座らせる手だてを。立ったままでは転倒の危険がある。例えば、おしりの下に折り畳みいすなどを置く。本人の体を移動させる必要もあり得るが、一人では危ない。必ず仲間を募ってサポートしてほしい。
 ◇ 
 思えば、私がこうしたノウハウに関心を向けるのは、病が進行し、しばしばこのような体験をしているためだ。
 薬による治療も、二回の入院で量やタイミングを調整し、もはや上限に達した。主治医はベストを尽くし、午後の数時間、体の軽い時間をつくってくれたが、その貴重な時間さえ侵されつつある。
 そこで、主治医が勧めるのは、「DBS」という脳外科手術だ。英語の「Deep Brain Stimulation」の略で、日本語では「脳深部刺激療法」。体の動きに関する脳内信号を調整し、パーキンソン病の諸症状を抑えるというが、資料を読み込んで若干怖くなる。手術では、意識があるまま頭蓋骨に穴を開け、脳の奥深く電極を差し込むのだという。
 「部分麻酔をするので痛くない」と主治医は言うが、頭蓋骨を切る振動は五臓六腑(ろっぷ)に響き渡るだろう。「今、手術を受けるべきか、それとも受けざるべきか。それが問題だ…」。シェークスピアの戯曲「ハムレット」の名せりふにわが身を当てはめてみる。かえって背筋が寒くなった。
 主治医は「受けるなら、若いうちがいい」とも。やむを得ない。他に手はない。私はDBSを行っている病院への紹介状を書いてもらった。
<パーキンソン病> 脳内の神経伝達物質ドーパミンを作る細胞が壊れ、手足の震えや体のこわばりが起きる。多くが50代以上で発症し、国内の患者数は約16万人。厚生労働省の指定難病で、根治療法はなく、ドーパミンを補う服薬が治療の中心。服薬は長期にわたり、経済的負担も大きい。
<みうら・こうき> 1970年、岐阜県生まれ。92年、中日新聞社入社。政治部、ベルリン特派員などを経て現在、編集委員。42歳のとき過労で休職し、その後、両親が要介護に。自らもパーキンソン病を発病した。事情を抱えながら働く「わけあり人材」を自称。

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