「人工皮革」使い三味線らしい音質を実現 工房営む中野貴康さん開発「動物の皮に頼っては未来ない」

2022年5月14日 10時01分
 「『ペットは家族』という時代の流れに合わせ、動物の皮を使わない三味線用の人工皮を作りました」。愛知県豊橋市で三味線工房を営む中野貴康さん(64)からこんな投稿が寄せられた。持続可能な開発目標(SDGs)が注目される中、環境配慮や動物保護の意識は、伝統楽器の世界にも広がりつつある。(石井宏樹)

◆雨の中でもOK、破れにくいこともメリット

 500年の歴史を持つ三味線は、胴にニシキヘビの皮を張る沖縄の三線にルーツがある。ただ、本土ではニシキヘビが手に入りにくいため、身近な犬や猫の皮が使われるようになった。
 ここ数年、津軽三味線の教室も営む中野さんが、犬や猫の皮が使われていることを説明すると、子どもたちから「かわいそう」と声が上がり、入会をあきらめてしまうことが増えてきた。津軽三味線で使う犬の皮は現在、国内では生産しておらず、在庫などに頼るため、張り替える際は1枚5万円程度と高額になるのもネックとなっていた。
 中野さんは「動物の皮に頼っていては未来はない」と危機感を抱き、人工皮革の開発を決めた。30年前から三味線用の人工皮革はあるが「キンキンとした安っぽい音になり、演奏者を納得させるものはなかった」。

胴に人工皮革を使った三味線を手にする中野貴康さん=愛知県豊橋市で

 自ら繊維業者を回り、特殊な布を重ねて加工を施すことで、数年がかりで「三味線らしい、丸みがありながら力強い音」を実現。1年半ほど前に三味線の人工皮「風音」(1枚税抜き3万円)を発売し、改良版の「風音soft」(同2万5000円)を今年3月に完成させた。
 犬の皮は湿気に弱く、1年ほどで破れてしまうが、人工皮革は雨の中でも演奏でき、破れにくいため、長く使うことができる。課題だった音色も、「プロも満足できる音の質になった」と自負。特に若い世代の奏者から問い合わせが多いという。
 三味線は象牙を使っていた糸巻きや、べっ甲のばちが早くからプラスチックなどに置き換わってきたが、最後の壁が音に直結する胴の皮だった。「動物の皮を使うのが当たり前と考えていたが、時代に合わせて変わっていかないといけない」と中野さん。さまざまな奏者の音の好みに合わせるため、改良を続けていく。

◆動物由来の素材使用を取りやめる動き

 欧米では消費者の嗜好に敏感なファッション業界を中心に、動物皮革の使用を取りやめるケースが相次いでいる。

古来、胴の表皮に使われてきた犬の皮(左)と中野さんが開発した人工皮革

 高級ブランドのシャネルは2018年にワニやヘビなどの希少動物の皮の使用をやめ、フェイクレザーに切り替えた。英国の百貨店「セルフリッジ」も希少動物のレザー製品の販売を取りやめた。スポーツブランドのアディダスも21年に人気スニーカーの素材を本革から、再生素材を使った合成皮革に切り替えた。
 三味線以外の楽器にも代替素材の使用を模索する動きが出ている。琴の弦をはじく琴爪はもともと象牙が使われることが多かったが、乱獲や密猟への批判を受け、ファインセラミックスや竹由来の素材を使う例も増えている。

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