来たれ、新たな社会主義 世界を読む2016−2021 トマ・ピケティ著

2022年5月15日 07時00分

◆今こそ機会平等実現へ
[評]根井雅弘(京都大教授)

 ニューヨーク・タイムズ紙など海外の一流紙で続々と書評が載りつつあるピケティの最新評論集が出版された。ピケティの名前は『21世紀の資本』がベストセラーになって以来、全世界で有名になった。
 現代の経済学者は、ふつう一流の査読付き学術誌の世界で評価されることを優先し、時事論説やエッセイなどを敬遠する傾向があるが、ピケティはそれとは反対に、フランスいや全世界の人々を読者に想定した文章を書かなければ、経済学者の社会的責任は果たせないと考えている。そういえば、二十世紀の天才経済学者ケインズも、日々の経済問題を新聞や雑誌などに積極的に取り上げ、それらの問題と取り組んでいく過程で自らの経済思想をも練り上げていったのだ。ピケティもその伝統を踏襲しているのである。
 本書は、「社会主義」という言葉が保守派に敬遠されるかもしれないが、主張されていることは、「格差の是正」「参加型社会主義」「循環型経済の実現」「人種差別反対」「男女同権」「多民族共生」等々、一言でいえば「社会正義の実現」ということである。ベルリンの壁が崩壊してから数十年間、市場原理主義が国際政治を動かしてきたので、あえて「社会主義」という言葉を使おうものなら、論壇で孤立する可能性さえあった。しかし、彼のいう「社会主義」は以前からある「社会民主主義」を、格差是正のための税制改革や過去の植民地支配に対する補償金の提案など、少しばかりラディカルにしたもので、特に危険思想というわけではない。
 ピケティは、二十一世紀も二十年以上過ぎて、潮は明らかに変わりつつあると感じている。もちろん、最近のフランス大統領選挙で極右候補者が現職にあと一歩のところまで力をのばしたように、不安材料はある。だが、出自に関係なく、「教育」「雇用」「財産」(最低限の相続)に平等にアクセスできるようにするべきだという彼の理想に共鳴する人は多いはずだ。それを「社会主義」と呼ぶかどうかは、些細(ささい)な問題にすぎない。読みごたえ十分の評論集である。
(山本知子、佐藤明子訳、みすず書房・3520円)
1971年生まれ。フランスの経済学者。『格差と再分配』『不平等と再分配の経済学』など。

◆もう1冊

翁(おきな)邦雄著『人の心に働きかける経済政策』(岩波新書)

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