虐待被害者の「リアルボイス」聞いて 自身も養護施設出身の監督がドキュメント映画製作へ

2022年5月15日 06時00分

「明るく懸命に生きている若者たちを見てほしい」と語る山本昌子さん

 大人になっても、虐待の苦しみは終わりじゃない—。そんなメッセージを伝えるため、虐待を受けて施設などで育った若者に密着したドキュメンタリー映画「REALVOICE(リアルボイス)」の製作が進められている。監督は児童養護施設出身で、社会活動家の山本昌子さん(29)=東京都杉並区。クラウドファンディング(CF)で寄付を募りながら、全国各地でカメラを回している。

メーンキャストの小林怜愛さん=以下の写真はいずれも山本さん提供

◆「死んだ方がいい」と思い詰めた時も

 映画は19〜25歳の女性5人を中心に描く。計60人が登場する予定で、来年4月の完成を目指す。
 山本さんは親のネグレクト(育児放棄)のため生後4カ月で乳児院に入り、19歳まで児童養護施設などで育った。大好きな先生もいて「幸せに育った」が、施設を退所する18歳の時に「帰る場所がなくなる」と猛烈な孤独感に襲われ、「死んだ方がいい」とまで思い詰めた。

メーンキャストの藤井七星さん

 立ち直れたのは「人生を振り返った」から。施設の職員や仲間、友人ら20人に「私って、どうだった?」と聞いて回った。「育ての親」と慕う職員をはじめ、さまざまな人が自分を愛してくれていたと気付き、気持ちの整理がついた。

◆コロナ禍で困窮する若者たち

 保育士の専門学校に通っていた21歳の時、先輩の女性の支援で、成人式で着られなかった振り袖姿の写真をスタジオで撮った。そのうれしさが忘れられず翌年、施設や里親家庭出身の若者に無償で成人式の記念撮影をするボランティア団体「ACHA(あちゃ)プロジェクト」を立ち上げた。

メーンキャストの遠藤れいなさん

 コロナ禍の2020年春、オンライン交流会を始めると「バイトが減らされ、モヤシしか食べていない」など困窮を訴える若者の声を多く聞いた。食料品や洋服の支援物資を送っても返送されてくることが相次いだ。自粛生活で虐待の記憶がよみがえって精神科医療機関に入院したり、不調をきたしても経済的に治療を受ける余裕がなく、自傷がひどくなって救急車で運ばれたりして不在だったためだ。

メーンキャストの阿部紫桜さん

 「虐待から逃れた後の心のケアが必要だ」と痛感し、公的支援を求める4万7000人余りの署名を昨年7月、厚生労働省に提出。より多くの人に若者が苦しんでいる現実を理解してもらおうと、ドキュメンタリーの製作を思い立った。

◆「前向きな姿伝えたい」CFで寄付募る

 映画製作を伝えると、みな積極的に出演に応じてくれたという。山本さんは「撮影で自分の人生を振り返って語ることが、私のように心のケアの一環になるかも。前向きに生きようとするみんなの姿を伝えたい」と期待している。

メーンキャストの根本海さん

 交通費や宣伝費のため、今月末まで200万円を目標にCFサイト「CAMPFIRE(キャンプファイヤー)」で寄付を募っている(出田阿生)

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