<水戸芸術館発 クラシックへの旅>(7)シューマンの理念 今に

2022年5月15日 07時08分

新ダヴィッド同盟の演奏会=2017年12月17日、水戸芸術館で

 水戸芸術館には水戸室内管弦楽団のほかにもう一つ、「新ダヴィッド同盟」という専属楽団があります。国際的に活躍するヴァイオリニスト庄司紗矢香さんを中心に、東京クヮルテットで長くヴィオラ奏者を務めたベテランの磯村和英さん、主にドイツで活躍するチェロの俊英・石坂団十郎さん、そしてソロに室内楽に多彩な活動を続けているピアノの小菅優さんという、わが国を代表する演奏家たちによる室内楽のグループです。
 ユニークな名称は、十年前に逝去した当館の初代館長・吉田秀和が考案しました。作曲家ロベルト・シューマン(一八一〇〜五六年)の「ダヴィッド同盟」に由来しています。
 シューマンは、学校の音楽の授業でも取り上げられる「トロイメライ」、故・中村紘子さん出演のカレーのCMでも使われた「謝肉祭」、ジャンルを代表する傑作として知られる「ピアノ協奏曲」など、数え切れないほどの名曲を残したロマン派の作曲家です。
 音楽史をざっと振り返ると、ハイドン、モーツァルト、ベートーヴェンらが古典派で、その後のシューベルトからはロマン派の時代に移ると言われています(他の芸術の時代区分と同様に、明確な線引きは難しいのですが)。シューベルトより十歳以上年下のシューマンは、同世代のメンデルスゾーン、ショパン、リストらとともに、ロマン派の音楽を大きく発展させた作曲家であり、その中でもリーダー格と言える存在でした。
 十八世紀末に勃発したフランス革命によって市民階級が台頭すると、人間の理性によって社会の進歩を目指す啓蒙(けいもう)思想が主流だった世の中に、個人の情熱や幻想性を重んじるロマン主義の風潮が押し寄せます。その大きな波に乗る形で花開いたのがロマン派の音楽です。
 ただ、主に王侯貴族のために演奏されていたそれまでの音楽と違い、入場料さえ支払えば誰でもコンサートが聴けるようになったため、一部の作曲家は大衆受けするような作品ばかり(例えば、派手な効果ばかりで中身の伴わないオペラなど)を書くようになります。
 その状況を嘆き、毅然(きぜん)と立ち向かったのがシューマンでした。ダヴィッド同盟とは、英雄ダヴィデ(ダヴィッド)が巨人兵ゴリアテを撃退するという旧約聖書の一編にちなみ、俗物に対抗して真の芸術を創造すべくシューマンが立ち上げた空想上のサークルなのです。
 優れた文筆家でもあったシューマンは、自らの分身とも言えるダヴィッド同盟の構成員、フロレスタンやオイゼビウスの名のもとに新聞・雑誌上で批評を行い、俗物的な作曲家を舌鋒鋭く批判したり、ロマン派の同志とも言える先述の三人の仕事を正当に評価したりしました。その活動はロマン派音楽の隆盛を支え、また、後にこの時代を代表する作曲家の一人となるブラームスの出現を準備したとも言えるでしょう。
 時を経て二十一世紀、シューマンの音楽的理念に共鳴して結成されたのが新ダヴィッド同盟です。六月十七日には「新ダヴィッド同盟 第六回演奏会」が開催されます。志ある演奏家たちによる理想的な音楽表現の追求に、ぜひご注目ください。
 チケットの予約や問い合わせは水戸芸術館チケット予約センター=電029(231)8000=へ。
 (水戸芸術館音楽部門主任学芸員・関根哲也)=毎月第三日曜日掲載

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