<ブルボン小林 月刊マンガホニャララ>(37)異世界の力と渡り合う

2022年5月16日 07時24分
 ファミレスでランチを頼んだら、ロボットが運びにきた。食事を載せたトレーをいくつか運べるロボットだ。ついにロボットが配膳してくれる未来がやってきた……のだが、あまりときめきがなかった。
 鉄腕アトムや、ホンダの開発していたロボット、アシモのように二本足で(ぎこちなくてもいいから)歩いて来てほしかった。
 アシモの実演公開も、この三月で終了した。ロボットが二本足で歩くことに、利便はさほどない。車輪の方が安価に、安全に移動できる(バリアフリーの建物も増えた)。夢想したのと少し違う未来だ。
 二十世紀の漫画やアニメはさまざまな未来を描いた。その未来そのものである二十一世紀の表現が二十二世紀を夢想することはあまりない。二足歩行より車輪がコストに見合う。そういう風にいろんな見通しがあらかじめついてしまう。
 今の漫画は未来ではなく「異世界」を夢想する。テレビゲームや『ハリー・ポッター』などの人気で、ファンタジー世界を描いた創作が、かなり身近なものになった。
 西欧の王国っぽい意匠の城や教会のある世界で、エルフは長生き、ドワーフは力持ちだとか、シーフ(盗賊)は手先が器用、スライムは弱くドラゴンは強いといったゲーム的な「設定」を、最初から了解した上で楽しむ。そういった「お約束」ありきの表現が浸透し尽くし、今はその中での特色を競うようになっている。
 『マッシュル』は、魔法を使えないが身体能力だけは秀でた少年が魔法学校に入学してしまう話だ。

甲本一『マッシュル-MASHLE-』 *『週刊少年ジャンプ』(集英社)で連載中。既刊11巻。

 ゲームや漫画のファンタジーに出てくる「魔法使い」は肉弾戦は不利だが、魔法を使って無傷で戦える、というお約束の「設定」を今作は巧みに活(い)かしている。出てくるどの魔法使いも尊大で、人を見下しているから、魔法を持たない主人公の鉄拳制裁が必ず「一撃で」劇的に効果を及ぼす(魔法が使える分、肉体は脆弱(ぜいじゃく)という「設定」の相手でないと、その快感は生じない)。見開き二ページで鉄拳が炸裂(さくれつ)する度、要するに「スカッと」できるわけだ。
 一人倒して次に現れる上位の敵は皆、同じように主人公を見下し、なめてかかる。ワンパターンなのだが、なぜだろう、パンクロックのような元気なワンパターンさで、好感がずっと崩れない。とにかく「人を見下すやつが一撃でぶん殴られる」をずっと繰り返しみていたくなる。絵もヘタウマなようだが空間の描き方が上手で、活劇の迫力もある。最新刊の強敵相手に主人公がパワーをあげた手段は「腕につけていた重りを外す」という、前世紀の熱血漫画のやり方(!)。最後まで涼しい顔のまま全敵を撃破してほしい。
 もう一作。『高度に発達した医学は魔法と区別がつかない』は、戦闘時の回復を魔法で行うのがお約束のファンタジー世界に、正義漢の医者が転生する。巨大な獣の怪我(けが)を、ヒーリングの魔法ではない、メスと鉗子(かんし)で縫合して治す。魔法の存在を根底から否定する挑戦的な創作で、医療も異世界もしっかり描こうという意欲が見て取れ、先が楽しみだ。

原作・医療監修:津田彷徨 漫画:瀧下信英『高度に発達した医学は魔法と区別がつかない』 *『月刊モーニングtwo』(講談社)で連載中。既刊1巻。

 かつて夢想した二足歩行のロボットには出会えない「今」の、「異世界だらけ」の創作群に、肉体と学識という「この世界にある」力で渡り合う二作に、わずかながら頼もしさを感じる。(ぶるぼん・こばやし=コラムニスト) 

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