<社説>企業収益好調 賃上げにつなげてこそ

2022年5月17日 07時54分
 国内の大企業が収益を増やしている。コロナ後をにらんだ経済再開の動きに加え円安が強烈な追い風になった。収益増をいかに賃上げにつなげるのか。経営者は全力で知恵を絞らなければならない。
 東京証券取引所に上場する二〇二二年三月期の純利益の合計は三十三兆円を超え過去最高を更新する。好決算は商社や自動車、鉄鋼など輸出関連企業を中心に広がっており、円安が業績を後押ししているのは確実だ。
 国内経済をけん引する企業が好調なら、設備投資が増加して中小企業に資金が流れ、賃金全体を底上げする動きが出始めるはずだ。
 ところが厚生労働省が公表した三月の毎月勤労統計調査では賃金自体はやや上がったものの、物価上昇分を反映した実質賃金は減少した。賃上げの波は起きていないどころか物価上昇にかき消されている状況である。
 さらに不安なデータがある。日銀が十六日に公表した企業間取引の価格を示す四月の企業物価が一九六〇年の統計開始以来の高水準に達した。背景にはウクライナ侵攻による資源高がある。企業が取引価格の高騰を理由に賃金抑制を図れば賃上げの流れは完全に止まりかねない。
 輸出関連の大企業は一三年から続く日銀の大規模金融緩和が演出した円安傾向で長く潤ってきた。さらに日米の金利差拡大を背景とした最近の円安が企業に一層の収益をもたらしている。
 二〇年度の企業の内部留保は約四百八十四兆円と過去最高を更新した。国や日銀が支えた好環境の中、多くの大企業が利益を還元せずに貯(た)めこんでいる形である。
 電力やガス料金、ガソリン価格のほか生活関連物資は軒並み値上がりしている。それは一般家庭の暮らしや飲食を含む中小事業者の経営を直撃している。今こそ大企業は、賃上げという形で社会全体に恩を返すべきではないのか。
 今後の収益予想を減速と見込む企業も多いが、それを理由に賃上げを拒むことはもはや許されない。利益の好循環を今起こさなければ一部企業だけが潤い、低所得者層を中心に多くの国民の貧困化が進むいびつな格差構造が定着しかねない。
 企業経営者には足元の利益追求にとどまらず、社会全体を見渡す高い視点に立った賃上げ策の実行を強く求めたい。

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