「読者と記者の研究室」続ける <「婦人之友」創刊120年 後編>編集長・羽仁曜子

2022年5月10日 11時32分

東京・西池袋の婦人之友社で。中央が羽仁編集長

 生活の中の課題を読者と共に考え、実践し、より暮らしやすい社会へつなげる。創刊120年を歩み出した月刊誌『婦人之友』が掲げる理念だ。衣・食・住に加え、教育や環境など社会の問題にも向き合ってきた。羽仁曜子(はにようこ)編集長による寄稿の後編では、最新号までの誌面づくりの姿を取り上げる。
 四月のある日、編集部に一本の電話がかかった。
 「昨年九月号のオレンジケーキ、何度か焼いてみたものの、味はとてもいいのに真ん中が沈むのはなぜでしょう」
 様子を聞き、水分量や火加減など、相談にのるのは試作を重ねた編集部員だ。
 一つひとつの記事が実際に活(い)かされるものであってほしいと、料理やお菓子のレシピは、正確に説明できているか作りやすいか、試作を繰り返す。その向こうには、家庭の味としてくださる読者の姿がある。
 五代目という読者もいる今、時代は移り、「読者と記者の研究室」が向き合う社会も大きく変化した。女性の社会での活動や仕事の場は広がり、一九九〇年代後半には日本で共働き世帯の数が専業主婦のいる世帯数を上回り、その後も増えている。「家庭」のかたちもさまざまだ。その中でも、生活視点から社会へ働きかける意義は変わらない。
 このコロナ禍、在宅勤務が増えた際には、仕事をしつつ子どもの世話や親の介護、三食の食事作りなど多くを担うフラストレーションを感じるという女性の声が聞こえた。それは社会全体のものの考え方に関わる課題だ。

姉妹誌「明日の友」の特集から誕生した書籍『くたびれない ごはんづくり』も好評

 二〇二一年二月号では座談会「どう解決?わが家の家事の負担感」を、読者も参加して行い、どうしたら家事を、親も子どもも関わって、家族みんなのことにできるかと話し合った。手軽にできるおいしい料理や、さっと片づく家などをテーマにするときも、一緒に暮らす誰もができたらと考える。
 読者との活動は多方面におよぶ。二〇一一年の東日本大震災後には、支援をきっかけに、わかめや昆布の養殖が盛んな宮城県石巻市十三浜(じゅうさんはま)の方々と出会った。全国友の会(読者の集い)、自由学園と共に交流する十三浜からはその後、わかめや昆布を適正価格で予約購入。海の仕事に目を向け、漁師さんと食べる人をつなぐ。読者、浜の女性たちと誌上で伝えあったレシピから、書籍『三陸わかめと昆布 浜とまちのレシピ80』が生まれた。
 環境問題改善にも、暮らし方の見直しが必須だ。連載中の「始めよう!プラスチックフリー・ライフ」では、世界の動きや専門家の研究と共に、例えば、ヘチマをグリーンカーテンにしつつ、たわしとして使ったり、環境負荷の少ない洗濯ネットをと、コストも含めて実験する読者の実践を掲載。楽しみつつの取り組みがじわじわ広がる。
 市民の暮らしと社会や国とのつながりは、ウクライナへのロシアの軍事侵攻でも考えずにはいられない。随筆「未来の余白から」を連載中の国際法学者・最上敏樹さんは五月号で情勢を明確に読者へ投げかけた。すぐに返った、心を痛める読者の声、平和を「願うばかりでなく、自分の居場所を半分あけ、共に暮らすこと。そんな覚悟を問われている」との言葉は重く響いた。

最上敏樹著『未来の余白から Ⅱ』。婦人之友の連載24編に書き下ろしを加えて昨年末に刊行した

 政治も経済も、生活者の「持続可能なライフスタイルって?」「子どもへのよい教育とは?」「お金の生かし方って?」「子育てと仕事、家のこともていねいにどうできる?」などの課題と切り離せない。それらを共に考える誌面から、おのおのの答えが見え、生きやすい社会につながれば。今号もぜひ、ご一緒に。

「婦人之友」の2022年5月号。「探究学習」をめぐる対談や、福岡伸一さんのエッセイほか、心なごむページもいろいろ

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