新法施行後、自治体は進めるけど… 成年後見制度 トラブルも 母への虐待疑われ 区に後見人疑問視され

2022年5月19日 07時24分
 認知症や知的障害などで判断能力が不十分な人に代わり、親族や弁護士、司法書士らが財産管理や契約手続きなどを行う成年後見制度。認知症の高齢者の増加に伴い、自治体も近年、後見人の選任を積極的に裁判所に求める傾向にある。だが、その進め方や制度に本人や家族が不満を感じるケースも少なくない。 (井上靖史)

対応で不快な思いをさせたとして大田区長名で女性に届いた文書

 「役所から虐待の疑いをかけられ一時的に母が望む場所に住ませてやれなかった」。神奈川県内に住む六十代の女性が憤りをにじませた。
 女性は二〇〇一年から東京都大田区の自宅で、母と二人暮らしをしていた。母は一二年、将来に備えて娘である女性を後見人に選任する契約を公正証書で作成した。
 成年後見制度は、本人が判断能力のあるうちに後見人を選任する「任意後見」と、判断能力が不十分になってから本人や親族、自治体などが家庭裁判所に申し立てて後見人を選任する「法定後見」の二通りある。女性のケースは任意後見に当たる。二年ほどして母に認知症の兆しが表れ、夜中に動き回ることもあった。
 一七年、区は女性に「母に対する虐待の通報を受けた」と連絡。通報者は明かさなかったが、「体にあざがあり、要介護認定も申請していない」などとして、養護者の任務を果たしていないと指摘。区は母を区内の施設へ引き離した。その上で、弁護士など別の後見人を充てるよう家裁に申し立てた。
 女性は「暴れる母を制止した際にあざができたかな」としつつ、思い当たる節はなかった。要介護認定の申請をしなかったのは「相続を巡る親族とのトラブルがあり、自宅の土地を差し押さえられて転居せざるを得なかったため」と説明。取材に「前年に区に相談はしたが、介護認定に難色を示された」と話した。

◆家裁は「虐待なし」

 家裁の調査に母は娘による後見を希望した。女性も「本人の意思を尊重してほしい」と訴えた。家裁は、区からあざの裏付け資料の提出もなかったことなどから、「任意後見の適格性を疑わせる虐待をした事実は認められない」と審判を下した。
 区は審判後も半年以上、母の入所先を伝えずに女性に不快な思いをさせたとして、松原忠義区長名の文書で女性にわびた。母は娘の近くに戻った二年後の二〇年、八十七歳で亡くなった。区の担当者は取材に「裁判所が判断したこと」と答えた。

◆8割が親族以外

 法定後見には判断能力に応じ後見・保佐・補助の3段階がある。最高裁判所によると2021年末時点の利用者数のうち成年後見が約74%、保佐は約19%、補助約6%。任意後見は約1%。後見人等の8割は親族以外の第三者で順に司法書士約38%、弁護士約26%、社会福祉士約18%など。報酬は管理する財産額に応じ利用者の財産から支払われる。

◆“不本意な施設入居” “マンション売却” “財産横領” 後見人から 不利益被ることも
「推進ありき」でなく 本人の満足最優先に

 成年後見制度を巡るトラブルの相談を全国から受け解決策を提示している一般社団法人「後見の杜(もり)」(東京都目黒区)の宮内康二代表=写真=は「自治体の申し立てが結果的にトラブルになったり、本人のためにならなかったりするケースは少なくない」と指摘する。
 東京都区内に住んでいた軽度の認知症の女性から寄せられた相談は、区の申し立てで法定後見人となった司法書士により、意思に反して施設に移され、マンションを売却されたという内容だった。
 「問題の背景には成年後見制度利用促進法がある」と宮内さん。制度は二〇〇〇年の介護保険制度と同時にスタート。同法は議員立法で一六年に成立して基本計画が策定され、自治体に制度の利用を促した。
 二一年末の利用者は約二十三万九千九百人で、一六年末から五年間で約三万六千三百人(18%)増加した。申立人の内訳では、一二年は本人の子が36%、市区町村長は13%だったが、二一年は市区町村長が23%と、子の21%を上回った。
 成年後見制度を巡るトラブルを受け、群馬県富岡市は昨年、後見人の解任や判断能力の回復による後見取り消しの道筋を示すパンフレットを作成した。自治体のこうしたパンフレットは珍しく、「財産を横領した、必要な事務手続きをしてくれないなど、後見人が不適格であることを家庭裁判所に申し立てる」などと利用者向けに説明している。
 宮内さんは「制度の理解や生活状況の調査が不十分なまま、推進ばかり図られているのではないか。後見制度を利用しなくても相談に親身に応じている自治体もある。本人の満足を最優先に考えてほしい」と話している。

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