<中村雅之 和菓子の芸心>「源平餅」(高松市・吉岡源平餅本舗) 屋島の伝説から誕生

2022年5月20日 07時24分

イラスト・中村鎭

 能には、武将が主人公の「修羅物」といわれる種類の曲がある。
 とはいっても、戦国武将は登場しない。いま演じられている曲のほとんどは、室町時代に作られ、同時代を取り上げることもなかったからだ。平安時代末期、国を二分して壮絶な戦いを繰り広げた源氏と平家の武将が、ずらりと並ぶ。
 曲数を比べると、平家に軍配が上がる。「清経(きよつね)」「敦盛(あつもり)」「忠度(ただのり)」など、よく知られている曲も多い。
 「修羅物」の多くは、世阿弥の作。世阿弥は、その著書「風姿花伝」の中で、「修羅物」について、源平の名のある武将を主人公に、「花鳥風月」と関連付けて作ると良い、としている。世阿弥の考えに従えば、風雅に長(た)けた平家に軍配が上がるのは必然だ。
 その中にあって源義経の奮戦を描いた「屋島(八島)」は、見どころ満載で、人気の曲だ。義経は、末路からすると、日本人好みの「滅びの美学」という点で、平家の武将と共通している。
 義経が戦った屋島は、高松の北東に位置する瀬戸内海に突き出た台地状の地形。かつては島だった。山上の屋島寺には、武蔵坊弁慶が、源氏の勝利を祝い、紅白の餅を搗(つ)いたという伝説の臼が残る。
 明治に入ると、宇高連絡船の開通などから屋島には観光客が押し寄せた。茶屋の主人から「何か名物になるような菓子を」と頼まれて生まれたのが、伝説から着想した紅白の小餅。平家の赤旗・源氏の白旗にちなみ「源平餅」と名付けられた。
 餅粉や麦芽糖などで作られ、中には何も入っていない素朴な味だ。 (横浜能楽堂芸術監督)
<吉岡源平餅本舗> 高松市井口町8の2。(電)087・851・9444。10個入り432円。

能「八島」。戦いのありさまを見せる義経の霊(大坪喜美雄)=神田佳明撮影

関連キーワード


おすすめ情報