自衛隊海外派遣 隠された「戦地」の現実 布施祐仁(ゆうじん)著

2022年5月22日 07時00分

◆取材・資料で迫る指揮下の実態
[評]古関彰一(独協大名誉教授)

 本書は「百聞は一見に如(し)かず」という言葉を眼前で教えてくれる。首相が国会で「自衛隊が活動している地域が非戦闘地域」などと言っていたイラクのサマーワは、現地では迫撃砲が飛び、ロケット弾攻撃の現状にさらされていた(二〇〇四年、小泉首相)。
 政府のPKO五原則には、「停戦合意や受け入れ合意が崩れた場合は、撤収する」と書いてあったが、カンボジアPKOの現実は、五原則と乖離(かいり)していた、という。
 著者は現場取材ばかりでなく、情報公開によって自衛隊の「イラク行動史」などを入手・検索し、あるいは当時の部隊幹部にインタビューをしており、本書は実に手堅い実証的な書物なのである。
 というのも、従来の自衛隊報道は、「現場」がない、せいぜい「演習」の実態を報じてきたにすぎなかった。しかし、本書は、PKOが中心ではあるが、自衛隊を文字や言葉による「観念」ではなく、「戦場」の自衛隊の「現実」を検証して、その是非を論ずることを可能にした。   
 また、自衛隊の今後に起こりうる問題も指摘している。「指揮権」問題である。政府はカンボジアPKOの際にも「指揮」を「指図」と翻訳し、政府統一見解で、国連軍への指揮下に入る「参加」ではなく「協力」であり、武力行使と一体とならない、としてきた。
 それは、イラクの多国籍軍への参加の場合も、多国籍軍の指揮下に入らず「連絡・調整」であり、他国軍の武力行使と一体化しない、と閣議決定していたのだ。
 ところが、著者が見た自衛隊の「バグダッド日誌」によると、多国籍軍の司令部に二人の幹部自衛官を「幕僚」として派遣していた、という。相手は米陸軍少佐だった。
 日米の指揮問題は、昨今「反撃能力」と名を変えた「敵基地攻撃能力」においても主要な問題であり、本書でイラク派遣でも米軍の指揮下にあったとの指摘は貴重である。
 インタビューのなかで、隊員が建設や機械は「日本のお家芸」と語る。今後は医療、技術教育など非武装による平和構築に期待したい。
(集英社新書・1034円)
1976年生まれ。ジャーナリスト。『ルポ イチエフ 福島第一原発レベル7の現場』など。

◆もう1冊

ジョン・ダワー著『戦争の文化』(上)(下)(岩波書店)。三浦陽一ほか訳。

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