韓国にも「赤ちゃんポスト」 是枝監督のカンヌ出品映画のモデルに 約2000人の命と母ら救う

2022年5月21日 12時45分

ソウルで4月中旬、赤ちゃんポストに預けられた乳児を抱く保育士ら

 未婚や貧困などさまざまな事情がある親から乳児を預かる「赤ちゃんポスト」が、韓国ソウル市南部の冠岳区にある。地元のキリスト教会の牧師李鍾洛イジョンラクさん(67)らが2009年冬に設け、これまでに2000人近くの幼い命を守ってきた。17日に開幕した仏カンヌ国際映画祭に出品された是枝裕和監督が手掛けた韓国映画「ベイビー・ブローカー」のモデルになったとされる施設を訪れた。(ソウル・相坂穣、写真も)

◆「捨てたんじゃない、守ったんだよ」

 古い民家や商店が密集する地域に、赤ちゃんポストを運営する「主の愛共同体」の施設がある。保育や福祉士の資格を持つスタッフ10人が24時間、交代で待機。ポストの扉が開けられ「エリーゼのために」のメロディーが響くと、スタッフらが手分けして赤ちゃんを保護し、親に声をかけに向かう。これまで98%の親に直接会い、「あなたは赤ちゃんを捨てに来たのではない。命を守った」と慰労し、相談に乗ってきた。

ソウルで4月、施設の外壁に設置された赤ちゃんポストを開く李鍾洛さん(左)ら

 代表の李さんが手応えを感じたのが、兵役義務で軍隊に行った恋人との間に生まれた赤ちゃんを連れてきた高校2年生の少女への支援だ。40代後半の父親に怒られると怖がる少女の代わりに、李さんが父親を訪ね「赤ちゃんを受け入れてほしい。あなたの娘も助けたい。私も手伝う」と説得した。1カ月後、赤ちゃんを迎えに来て涙を流して喜ぶ家族の姿が記憶に残る。

◆熊本・慈恵病院など参考に

 李さんは20年に亡くなった長男が重度障害者だったため、障害者施設を運営していた。施設の玄関前に障害のある赤ちゃんが置き去りにされるケースが相次ぎ「いつか凍死する子が出てしまう」と憂慮。熊本県の慈恵病院や欧州などの先行事例を参考に、韓国初の赤ちゃんポストを設置した。10年3月に最初の赤ちゃんを受け入れて以降、これまでに1978人を預かった。

是枝裕和監督の韓国映画「ベイビー・ブローカー」のシーン=制作会社「CJ ENM」提供

 赤ちゃんは健康状態や家族状況などに応じ、総合病院や児童養護施設、里親との養子縁組など行き先が決められる。だが、李さんらは赤ちゃんが実の親の元に戻れることを最優先に取り組んでおり、実際に17%が再び親元に戻ったという。

◆映画が共感広げる契機になれば

 赤ちゃんポストに子どもを預ける親は6〜7割が未婚で、昨年は20代が61%、30代が25%を占めた。李さんは「未婚の母への偏見が強い。学生が子どもを産みたいと言えば、自主退学させられる雰囲気も問題」と考える。団体は経済的な事情を抱えるシングルマザーらに住居や生活費、粉ミルクなども提供する。

是枝裕和監督の韓国映画「ベイビー・ブローカー」のポスター=制作会社「CJ ENM」提供

 赤ちゃんポストは当初、「捨て子を助長する」との批判を受けた。今も韓国政府や自治体からの支援は受けられていないが、近年の世論調査では支持率が8割を超える。さらに是枝監督の作品がカンヌで評価を高めれば、活動は世界で注目される可能性もある。李さんは「未婚の母を守り、生命を尊重する大切さについて共感を広げる契機になれば良い」と期待している。

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