<ひと ゆめ みらい>江戸更紗に魅せられて 染め物職人・井上英子(はなこ)さん(44)=新宿区

2022年5月23日 07時04分

「手の力加減で色の濃さが変わる」と井上さん=新宿区で

 江戸時代に武士も庶民もおしゃれを楽しむようになり、染色の技法が飛躍的に発展した。明治、大正期に神田紺屋町の染色職人たちは神田川や妙正寺川のきれいな水を求めて新宿・落合に集まってきたという。
 そんな地域にある染色工房「染の里おちあい」(新宿区上落合)の職人として働く。北九州市出身。サラリーマンの家庭に育ったが、小さい頃から絵を描くのが大好き。東京造形大で染色の基礎を学んだ。今は同工房で、さまざまな染色技法の中で中近東やインドにルーツがあり、茶色の中にエキゾチックなデザインが施される「江戸更紗(さらさ)」に魅せられ、取り組んでいる。
 「更紗では柄の花などが実際にあるものとは限らず想像した植物も使えることが特徴」と語る。二十枚ほどの型紙を重ねて刷り、色を定着させる。柄の生きる色が出るように調合もし、色の定着のために蒸したり、布から糊(のり)を落とすために洗う水元と呼ばれる工程もある。
 「刷りは手の力加減でちょっとした色の濃さが変わってくる。バランスを見ながら無事に(着物用の)一反が染め上がった時の喜びは大きい」と言い「お客さまが着物として着ていただいているのを見るとうれしいです」と顔をほころばせる。
 染め物職人として「作品に私の個性を出すことはない」と言い切る一方で、自らの特徴を「色づかいのバランスを取るのは比較的うまいのかなあ。また、作業を同時進行で手際良く進めることができる」と謙虚な口調で説明する。
 昨年十二月、新宿区が優れた職人を対象とする「技の名匠」に認定された。「染めの技術が私たちの代で終わらず、後世に伝えなくてはいけないと重く受けとめている」と真剣な表情を見せる。
 職人としての作業だけでなく、職場が定期開催している一般向けの染色体験教室の講師も務める。「もの作りが好きな方が来られるので応援したいし、面白いデザインを発想される人がたくさんいるので私にとっても刺激になりますね」と話す。
 「昔から着物の通が遊び心で選んで着るのが更紗」と言う。「慣れていない人が初めて着るものではなくちょっと値も張りますから一般の方へ本当の魅力が伝わっていないかも。知っていただく努力も必要ですね」(竹島勇)
<「染の里おちあい」> 新宿区上落合2の3の6。営業時間は午前11時〜午後5時(月曜休)。職人が染色するのをガラス越しで見学することもできる。水曜、土曜、日曜に更紗型染め染色体験(有料)を実施。問い合わせは、染の里おちあい=電03(3368)8133=へ。

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