「倒れている人を踏んで走った」「友人がつかんでいた手を…」 パリ同時テロ公判で被害者ら「心の傷」を吐露

2022年5月23日 12時00分
 フランスで2015年11月に130人の命を奪ったパリ同時多発テロ事件の公判が、大詰めを迎えている。今月中旬に傍聴すると、イスラム過激派グループの銃撃で90人が亡くなったコンサートホール「バタクラン劇場」に居合わせた人たちに最後の陳述機会が与えられていた。6年超にわたり抱えてきた心の傷を吐露する切実な声が法廷に響いた。(パリ・谷悠己)

19日、パリ同時多発テロで最多90人の犠牲者を出したバタクラン劇場=谷悠己撮影

 「なぜここが、私たちが狙われたの?」
 アリスさんはコンサート途中の爆発音に気付き、近くで血まみれの男性が倒れたのを見て、同年に起きた風刺週刊紙シャルリエブド本社襲撃事件のようなテロ発生を悟った。見渡すと、Tシャツにスニーカー姿の男が自動小銃を構えている。「テロリストらしくない格好」といぶかしく思ったが、「表情を見たら怒りと強い決意にあふれていた。あの顔は忘れられない」。
 その後の惨劇は複数の被害者が同じ言葉で表現した。「撃たれた人がドミノのように倒れていった」。3人の男たちが放つ銃声が一瞬やんだ隙、誰かが「彼らは弾を詰め替えている。今がチャンスだ」と叫んだ。運良く逃げ出せた人たちも、その際の体験がトラウマ(心的外傷)になっていた。

2015年11月13日、パリのバタクラン劇場から担架で女性を運ぶ救助隊員=AP

 ある男性は「倒れている人を踏んで走った。そうしないと自分が押しつぶされると思ったから」と振り返った。別の女性は「自分が逃げるために、友人がつかんでいた手を振りほどいた。その時にできた引っかき傷を見返すたび、罪悪感に悩まされた」と打ち明けた。
 「あの夜に生まれた闇が私を暴力的な、自分が一番嫌いなタイプの人間につくり替えてしまった」。こう語ったカミーユさんのように、傍聴中に証言台に立ったほぼ全員が「事件後は人生が一変した」と訴えた。

今月17日、公判に出廷して証言したパリ同時多発テロ発生時に演奏していたバンド「イーグルス・オブ・デスメタル」のメンバーら=AP

 事件当時は1歳未満だったギヨームさんの長男は、言葉を覚え始めたころから「怖い。パパが死んじゃう」と繰り返すようになり、7歳になった今も精神科に通院している。アリスさんは「何度か自殺しようとしたが、母親に『あなたが生きていなかったら私が自殺する』と言われ、思いとどまった」と話した。
 事件当日に見知った被害者らが再会する場面もあった。意見陳述に代わり自作の詩を朗読したナイマさんは、自身の前に証言したルイーズさんに「彼女の名前を今初めて知ったが、あの夜に見た彼女のまなざしは、恐怖の中にいた私に少しだけ人間性を取り戻させてくれた」と感謝していた。

◆「憎悪は持たないが許すことはできない」

 被害者による意見陳述の機会は、昨年9月に始まった公判の初期に設けられていたが、当時は話す気持ちになれなかった人らを対象に再設定された。
 20人の被告のうち実行犯グループ唯一の生存者サラ・アブデスラム被告(32)以外は直接テロには関わらず、同被告の隠避や計画を補助した罪などに問われている。証言台横のガラス張りの小部屋に座る被告らが休廷中、冗談を言って笑い合う場面も見られた。
 こうした光景に納得がいかない様子のセドリックさんは意見陳述中に「事件の真実が少しでも解明される期待を持っていたが、実際には何カ月もかけ、ちんけな犯罪者を裁いているだけだ」と不満を漏らした。
 アブデスラム被告は最後の被告人質問で初めて犠牲者に謝罪し、「私のことを憎む時には少し配慮してほしい」と訴えていた。
 「憎悪は持たないが許すことはできない」と話す人が多い中、ギヨームさんは「私は彼の求めに応え、許そうと思う」と述べ、こう付け加えた。「ただし、私からも1つ求めたい。もしあなたが誠実なら、2度とこのようなことが起きないよう働き掛けてほしい」
 公判は6月中旬に検察側の論告求刑、同月末に判決が予定されている。

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