<特派員の眼>消えない英首相官邸のパーティー問題 エリートの偽善、不公平を許さぬ市民の怒り

2022年5月23日 12時00分
18日、ロンドンの英下院で発言するジョンソン首相=英議会提供・AP

18日、ロンドンの英下院で発言するジョンソン首相=英議会提供・AP

 「ロシアのウクライナ侵攻で、『パーティーゲート』はもはや吹き飛んだのでしょう?」
 先日、日本の友人とズームで近況をやりとりしていて、そう聞かれた。新型コロナウイルス規制下で、英首相官邸がルール違反のパーティーを繰り返していた問題のことだ。
 「戦争が起きた今となっては、ささいな問題だよね」「ボリス(ジョンソン首相)は逃げ切ったね」。国際問題に関心の高い知人は、当然のように話し続けた。確かに、日本の識者や元外交官のツイッターなどでも、首相の迅速なウクライナ支援やキーウ(キエフ)電撃訪問などの行動力を評価し、「パーティー問題はすっかり陰に隠れた」とする意見を目にする。
 しかし、英国に住んでいる側からすると、そういう感じではないのだ。英メディアの追及の厳しさもさることながら、取材やパブで市井の人々と話すと、怒りは消えていないと感じる。エリートの偽善や不公平さがこれほどわかりやすく示された政治スキャンダルはないという。首相側が欧州の戦時を強調してパーティー問題を矮小わいしょう化しようとすればするほど、逆に反発を呼んでいる印象だ。
 首相は4月に警察から罰金通知を受けたことを認め、国民に謝罪したが、直後のユーガブの世論調査では、74%が首相を「信頼できない」と回答。5月5日時点の支持率は26%と低迷、地方選も全国で敗北し、2019年の総選挙で保守党を歴史的大勝に導いたあのオーラは影もない。

◆「ボリスは国民をばかにした」

 保守党を支持してきた40代の個人事業主の女性は「前はボリスが好きだったが、彼は国民をばかにしたと思う」と憤る。「コロナで家族の最期をみとれなかった人たちは絶対に許せないだろうし、女王も故フィリップ殿下の葬儀に独りで参列したのに…」と話す。20代の飲食店店員の男性は「国民にルールを課しながら自分たちは守らず、フェアじゃないのが一番許せない。ボリスは他の政治家と違うと思ったが、裏切られた」と話す。
 ウェストミンスター大のピッパ・キャテラル教授(歴史学)はブログで、「勤勉さは報われるという能力主義の信念は、保守党を支持する中流以上の労働者階級の間で深く浸透してきたが、首相の行動はその価値観を裏切った」と指摘する。
 今月の地方選を取材した時、ある保守党候補者は「『おまえの党首を代えてから出直せ』と有権者に言われる」と苦戦を嘆いた。崖っぷちの首相だが、強みは「代わりがいない」ことだ。後任の最有力だったスナク財務相は、富豪の妻の税金逃れ疑惑が発覚して人気が急落。最大野党労働党のスターマー党首も、コロナ規制中に同僚とビールを飲む写真が報じられ、自らの疑惑払拭ふっしょくに時間を取られている。
 パーティー問題からは逃れられなくても、強運の持ち主なのは間違いない。史上初めて法律違反で罰せられた現職首相となったが、その類いまれなしぶとさでも、歴史に名を残すかもしれない。(ロンドン・加藤美喜)

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