<脱レアメタル 日本の元素戦略>(下)レアメタルを使わない新材料って?実用化目指し創意工夫

2022年5月23日 20時41分

細野秀雄さんと細野さんの技術が生かされた有機ELテレビ=横浜市の東京工業大で

 半導体などの電子部品や鉄鋼など「工業素材」は、日本の輸出総額の2割という経済の要ですが、その製品にもレアメタル(希少金属)が欠かせません。日本は10年かけた元素戦略プロジェクトで、レアメタルを安くて手に入りやすい元素に置き換えたり、レアメタルを使わずに高い性能を出したりする研究の成果が出てきました。今後の実用化が期待されています。(増井のぞみ)

◆イグゾーの次は…イタゾー

ガリウム。30度で液体になる=東京大生産技術研究所で

 希少金属のガリウムは、発光ダイオード(LED)や、電力消費が少ない有機エレクトロルミネッセンス(EL)テレビのディスプレー「IGZO(イグゾー)」などの画面に使われています。中国が世界の98%を生産する一方、日本は世界需要の44%を占める世界最大のガリウム消費国です。
 IGZO半導体発明者の細野秀雄・東京工業大栄誉教授は昨年、ガリウム(Gallium)を豊富にあるスズ(Tin)に置き換えた「ITZO(イタゾー)」を発表しました。実は、2004年にイタゾーの特許は出願していました。イグゾーの3〜5倍速く動くので、8Kよりもっと高解像度のテレビには最適なのですが、動きが不安定なので倉庫にしまいました。

◆課題解決にメド 実用化に期待

 しかし、企業から「イグゾーよりもっと速いものを」と要望を受け、2年ほど前にイタゾーの研究を再開したのです。動きが不安定な原因を調べると、微細な加工をする段階で微量に残った炭素と分かり、対策にメドがつきました。企業から引き合いがあり、細野さんは「ポストイグゾーと言ってもいい。近い将来の実用化が期待できる」と胸を張ります。
 細野さんは、文部科学省の希少金属を使わない材料を開発するプロジェクト「元素戦略」の電子材料研究拠点の代表として、多くの新材料をつくりましたが、イタゾーはその一つです。プロジェクトは、12〜21年度の10年間進められました。

◆「ネオジム磁石」を改良

ジスプロシウムを使わない耐熱ネオジム磁石=物質・材料研究機構で

 物質・材料研究機構(物材機構)などは磁石を研究してきました。ネオジムという元素を使った強力な「ネオジム磁石」です。ネオジム磁石はスマートフォンのバイブレーターから電気自動車やハイブリッド車のモーター、風力発電機にまで使われ、再生可能エネルギーを生かす鍵と期待されています。

ジスプロシウムの塊=東京大生産技術研究所で

 ところが温度が200度に上がると、磁力が乱れて弱い磁石になり車などでは使えません。そこに希少金属のジスプロシウムを加えると磁力の乱れを抑えられるので、現在はジスプロシウムを加えて使っています。そこで、ジスプロシウムを使わないための技術開発を進めてきました。
 どうしたらジスプロシウムなしで磁力の乱れを防げるのでしょう。磁石は小さな磁石の粒が集まってできています。その粒をより小さくすることで磁石の乱れが広がるのを抑えられることが分かってきました。
 磁石の分析を率いた宝野和博物材機構理事長はこの方法を田んぼに例えます。「田んぼ(磁石の粒)を10分の1くらいの大きさにしてあぜ道(粒の境界)をしっかり固めれば、水があふれて広がるのを防げる」

◆カギは「田んぼ」と「あぜ道」

 あぜ道という仕切り壁を増やすことで、あふれる水のように、広がろうとする磁力の乱れを抑えればいいと気づいたのです。磁石メーカーの大同特殊鋼が粒を細かくしたネオジム磁石を提供。その周りにさらにネオジムと銅の合金をコーティングして加熱すると、あぜ道に浸透して固まり、耐熱性がぐっと高まりました。今も、耐熱性を高める研究が続きます。
 また、京都大などでは、鉄鋼や鉄以外の合金をつくる粒を1ミクロン(100万分の1メートル)より小さくすることで強度と伸びを両立させ、性能を上げるために加えるレアメタルを大幅に減らせることを発見しました。
 プロジェクトには合計で215億円が投じられました。開発した新材料の大半はまだ実用化されていませんが、細野さんは「材料は最初の発見から実用まで早くて10年、普通20年」と今後に期待します。今後の研究は、各大学や研究機関、企業に引き継がれます。
 文科省は本年度から9年間の「データ駆動型プロジェクト」を始めました。全国の研究機関や大学に蓄積された多量の材料データを活用し、コンピューターシミュレーションで新しい材料の素早い開発を目指します。元素戦略で作り上げた研究体制も生かされます。
 元素戦略の指揮官に当たるプログラム・ディレクターを務めた玉尾皓平・京都大名誉教授は「資源に乏しい日本はこれからも、資源問題を知恵で解決する方策を考え続ける必要がある」と指摘します。

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