白人中心の運営から人種的多様性を目指すブロードウェー 日本出身のキム・ヨンシルさん「ヘイトに打ち勝つ」

2022年5月25日 12時00分

「ライオンキング」の一場面。ブロードウェーでは出演者やスタッフの人種的多様性を広げる動きが進められている=Brinkhoff-Moegenburg提供

 新型コロナウイルスによる休業から昨年9月に本格再開した米ニューヨークの劇場街ブロードウェー。客足の復活とともに業界が目指すのが、出演者らの人種や出身地の多様性拡大だ。今年ブロードウェーにデビューした日本出身のキム・ヨンシルさん(32)は「さまざまな人種が活躍することで、差別やヘイト(憎悪)に打ち勝てると信じている」と話す。(ニューヨーク・杉藤貴浩)

5月、米ニューヨークのブロードウェーの劇場で「ライオンキング」の公演に臨むキム・ヨンシルさん=Disney on Broadway提供

 キムさんは岡山市生まれの在日コリアン3世。姉2人の影響でバレエの道に進み、17歳の時に渡米してニューヨークのバレエ学校で学んだ。コンテンポラリーダンスやミュージカルにも活躍の場を広げ、コロナによる休業から再開した人気公演「ライオンキング」で今年1月、初のブロードウェーの舞台に立った。
 「ダンサーとして、アフリカの民族衣装からシマウマのいでたちまで1つのショーで11回も着替えて出演している」とやりがいを口にするキムさん。コロナ禍では2年も演じることができず、オンラインのダンス講師などで生活をやりくりした。久々の公演に「アジア系として誇りを持って演じたい」と話す。
 近年盛り上がるブラック・ライブズ・マター(黒人の命も大切だ)運動に代表されるように、米国では各分野で白人中心の運営から黒人やヒスパニック系、アジア系などへ人種的多様性を広げることが課題となっている。
 ブロードウェーでも公演再開を前に、劇場主や興行主でつくる業界団体ブロードウェー・リーグや俳優らの労働組合などが改革プランに署名。人種的偏見の解消に向けた研修や多様性のある人材採用を進めることになった。
 実際、アジア系俳優でつくる「AAPAC」の調査によると、コロナ前の2018〜19年シーズンにニューヨーク市で上演された舞台の出演者の58・6%が白人で、市の人口に占める32.1%(ヒスパニック系を除く)を大きく上回る。
 アジア系の出演者は6.3%で人口割合の14.1%の半分以下だ。演出家や脚本家は圧倒的に白人が多い。
 キムさんは「オーディションなどでは自分がアジア系だということはあまり意識せず、本当にダンサーとして評価されることを目指す」と話す一方、「日常ではアジア系だからちょっと違う目で見られたりすることもある」とも明かす。コロナ禍ではアジア系に対する犯罪や嫌がらせが広がり、自身も街で何度か「国に帰れ」と言われたという。
 「でも、米国には努力すればチャンスも転がっている。自分をはじめ多くの人種が活躍することで、後に続く人を良い意味で刺激したい」とキムさん。
 華やかさを取り戻したブロードウェーから多様性を発信したいと考えている。

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