木造住宅の密集地域で住民から不安の声「火事が起きたらアウト」 首都直下地震の被害想定

2022年5月26日 06時00分
 10年ぶりに見直された東京都防災会議の被害想定は、都心南部直下地震で死者約6100人が出るとして耐震化、不燃化の必要性を改めて強調した。下町エリアは再開発が進む一方、老朽化した木造住宅が密集する地域が残り、高齢の住人が建て替えを望まなかったり、資金を工面できなかったりという課題もある。高齢者をどう守るか。墨田区内を歩いた。(三宅千智、土門哲雄)

細い路地に面して密集する木造住宅=東京都墨田区京島2丁目で

◆昔ながらの街並み

 東京スカイツリーを望む京成曳舟駅(墨田区京島1)。大型商業施設や高層マンションが並び立つ駅周辺の再開発エリアから南に歩くと、引き戸式の木造長屋や狭い路地など、昔ながらの街並みが残る京島2、3丁目地区に行き着く。
 関東大震災や東京大空襲による焼失を免れたこの地区は、首都直下地震で火災などの被害が想定される木造住宅密集地域(木密)で、重点的に整備が必要な「不燃化特区」に指定されている。1995年の阪神大震災当時、木造住宅が密集し大規模な火災が起きた神戸市長田区と街並みが似ているとも指摘される。

◆高齢者にのしかかる建て替え費用

 地区の至る所に真新しい家や建て替え工事中の住宅が見られる一方、建て替えがかなわない高齢者たちからは不安の声も漏れる。
 築100年近いとみられる5軒長屋に長年住む高垣洋子さん(77)は「燃えやすい木造なので、近くで火事が起きたら、という心配は常にある。お金があれば安全なマンションに引っ越したいけれど…」とつぶやく。建て替えについては「隣家と壁を共有しているので、わが家の判断だけではどうにもできない」。この5軒長屋のうち実際に住んでいるのは2軒で、他は空き家か物置という。
 木造平屋の2軒長屋で生まれ育ったという男性(83)は「古い家だから、火事が起きたらアウト。周りはどんどん新しくなっていくけど…」と不安そうに自宅と周囲を見回した。「借家だから、建て替えるかどうかは大家さんの考え次第。立ち退きにでもなればそれこそ困るよ」と話した。
 幅2メートルほどの狭い路地に面した木造2軒長屋に家族で暮らす男性(65)は「古い家だし建て替えたい気持ちはある。でも…」。幅4メートル未満の道路に接して建物を新改築する場合、建築基準法に基づき道路の中心線から2メートルまで後退(セットバック)させる必要がある。男性は「この場所で建て替えとなれば敷地も狭くなってしまう」と話す。
 都心南部直下地震(冬の午後6時、風速毎秒8メートルの風)で、墨田区では建物約5400棟が全壊、約4100棟が焼失し、321人が亡くなると想定された。不燃化対策のため、区は古い建物の除去に90万円、建築設計に100万円の助成をするなどしているが、助成金だけで工事費は賄えないため、建て替えは一気には進まない。

◆延焼防止の避難場所

 地区を巡ると、手押しポンプ式の雨水貯水槽を備えた小さな公園、ベンチの付いた広場をあちこちで見かけた。災害時の一時的な避難場所とし、延焼防止に活用できるよう、地元のまちづくり計画に基づいて区が1994年から20カ所以上整備してきた。
 京島地区まちづくり協議会の阿部義栄会長(63)は、「公園や広場を日常的に目にすることで、住人の防災意識の向上につながれば」とした上で「住宅の建て替えは簡単ではない。互いに助け合う気持ちを持ち、地域で高齢者を守っていくしかない」と語った。

◆「木密」23区の総面積の約14%

 都内の木造住宅密集地域の面積は、JR山手線の外周部を中心に約8600ヘクタール。23区の総面積の約14%に当たる。このうち52地区(3350ヘクタール)を都と区が「不燃化特区」に指定。不動産鑑定士らを派遣して建て替えの相談に乗るほか、建物除去や建築設計費を助成している。
 都は、不燃化特区での燃えにくさを示す指標「不燃領域率」を2025年度までに70%にする目標を掲げる。だが、墨田区京島地区を例に挙げると、不燃領域率は16年度58%、20年度は61%にとどまる。「建物の権利関係が複雑で、所有者不明のこともある」(都の担当者)など建て替えが難しいケースもある。
 都は緊急車両の通行路となる「特定整備路線」(28区間、25キロ)の整備も進める。延焼防止にも役立つが、道路拡幅で住人や商店が移転し、古くからの街の良さが失われるとの指摘もある。

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