ウクライナ侵攻の原型は「自作自演」か…プーチン氏が権力を握った爆破事件と謎の死

2022年5月26日 06時00分
2015年12月17日、モスクワで年末恒例の記者会見を行うプーチン大統領

2015年12月17日、モスクワで年末恒例の記者会見を行うプーチン大統領

<侵攻の深層 ②>

◆「強い指導者」へのきっかけ

 「あの事件について口外しないよう、住民は文書にサインさせられた」
 ロシア西部の都市リャザン。住民のナタリア(70)は1999年9月22日に起きた爆破未遂事件のことを鮮明に覚えている。
 首都モスクワや南部の都市で8月末以降、大規模アパートなどが爆破される計5件の事件が発生し、計300人以上が死亡。国民の不安は頂点に達していた。
 不審な車からアパート地下室に袋を運び込む男女。住民からの通報を受けた警察が地下室で高性能爆薬が入った袋と起爆装置を見つけ、大騒ぎとなった。
 旧ソ連国家保安委員会(KGB)の流れをくむ連邦保安局(FSB)長官から首相に就任して間もないプーチンは、2日後の24日、一連の爆破事件などをチェチェン独立派武装勢力による「テロ」と断定。独立派を「トイレに追い詰めてぶち殺す」と強い指導者をアピールし、チェチェンへの空爆を命じた。

◆くすぶる疑惑

 プーチンは、テロにおびえる国民の熱狂的な支持を集め、翌年3月の大統領選で初当選。この事件は最高権力者の原点だった。
 しかし、一連の爆破事件は今も疑惑がくすぶる。リャザンで発見された爆薬ヘキソーゲンは軍・治安機関以外には入手できず、起爆装置を仕掛けたとして一時的に拘束された男女はFSB職員だったからだ。
 FSB長官のパトルシェフ(現・安全保障会議書記)は当時、「袋の中身は砂糖で、テロを想定した訓練だった」と釈明した。
 一方、一連の事件を調査した元FSB大佐で弁護士のミハイル・トレパシュキン(65)は本紙取材に「訓練ではなく爆破の準備だった。プーチンの権威を高めるために、一連の爆破が必要だった」と指摘。連続爆破事件はチェチェンに再侵攻し、無名だったプーチンを大統領に押し上げるためのFSBによる「偽旗作戦」との見方を明かした。

◆でっちあげ

 爆破事件の真相究明に当たった記者や政治家らは謎の死を遂げた。2006年に英国で毒殺された元FSB職員アレクサンドル・リトビネンコ=当時(43)=もその一人だ。ロンドン在住の妻マリーナは本紙に「夫はKGB出身者が国の全権を握るプーチン政権下で築いた(統治)システムを心配していた。今も権力を掌握する人々は大変危険な存在だ」と警鐘を鳴らす。
 プーチン政権はウクライナ侵攻にあたっても偽装工作や情報操作を駆使。東部ドンバス地域でのロシア系住民の虐殺をでっち上げ、「保護」を名目に全面侵攻に踏み切った。
 都市への無差別攻撃や民間人の虐殺行為などが起きたチェチェン紛争は、ウクライナ侵攻の「原型」とされる。プーチンの後任としてFSB長官に就いたパトルシェフへの信頼は最も厚い。ウクライナ侵攻でも情報戦など重要な役割を果たしているといわれる。
 ただ、今回の戦争では欧米各国が先手を打ち、ロシアとの情報戦を優位に進める。軍事侵攻の兆候に気付いた米国は昨年11月、政府横断の特命班を設置。ロシアの偽旗作戦に翻弄された過去の教訓から機密情報を積極的に公開する異例の戦略を進めた。
 「機密を解除して情報を開示する取り組みが非常に重要だと確信する」
 駐ロシア大使を務めた米中央情報局(CIA)長官のバーンズは3月、議会上院の公聴会で、そう断言した。(敬称略)
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【連載 侵攻の深層】
 ロシアによるウクライナ侵攻の背景や今後の行方を探ります。

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