語られ始めた「終末の日」…核で恫喝するロシア 「2週間余りで完了」の見通し外れ苦戦の裏返し

2022年5月27日 06時00分
ロシア・アストラハン州で2020年9月、軍事演習を視察する(右から)ショイグ国防相、ゲラシモフ参謀総長、プーチン大統領。この3人が核兵器の発射ボタンを押す権限を持つとされる

ロシア・アストラハン州で2020年9月、軍事演習を視察する(右から)ショイグ国防相、ゲラシモフ参謀総長、プーチン大統領。この3人が核兵器の発射ボタンを押す権限を持つとされる

<侵攻の深層 ③>

◆プロパガンダ機関が語る「核戦争」の可能性

「ウクライナでの軍事作戦が複雑な状況に陥れば、核戦争で終わる可能性が高い」。ロシアの政治討論番組に出演した国営テレビ局「RT」の編集長シモニャン(42)が言い放つと、司会者ソロビヨフ(58)は「でも、われわれは天国に行けるだろう」と真顔で応じた。
 ロシア軍の侵攻開始から約2カ月後。ウクライナからの激しい反撃を受けていた4月末、欧米がプロパガンダ機関に指定する国営メディアで「終末の日」が語られ始めた。
 外相ラブロフも「核戦争のリスクを軽く見るべきではない」と発言。プーチン政権は、欧米各国によるウクライナへの武器供与を阻止しようと、国営メディアや外交ルートを使って恫喝どうかつを繰り返した。
 ロシア政府が2年前に公表した「核抑止政策に関する基本原則」は、国家が存亡の危機にさらされた場合などに核兵器による反撃を認めている。現在の戦闘地域はウクライナ国内に限られており、軍事雑誌編集長コロチェンコは「原則からすればウクライナでの核使用はあり得ない」と指摘する。
 しかし、プーチンはこれまでもたびたび核の使用をちらつかせ、国際社会を威嚇。歴代クレムリン指導者と太いパイプを持ち、核政策を担ってきた元ソ連共産党機関紙の科学部長グバレフは、2年半前の本紙取材に「プーチンは核兵器を軽く考えすぎている。核の恐ろしさを理解せず『おしゃべり』の度が過ぎる」と厳しく批判していた。

◆高官自宅軟禁の情報 漂う閉塞感

 「核の恫喝」は、ロシア苦戦の裏返しでもある。
 プーチンは20年来、ソ連崩壊で疲弊したロシア軍の立て直しと近代化に取り組んできた。2020年末の時点で新型装備の比率は通常兵器で約70%、戦略核兵器で86%に達しており、その軍事力でウクライナを圧倒する腹づもりだった。
 旧ソ連の国家保安委員会(KGB)の流れをくむ連邦保安局(FSB)の職員が内部告発したとされる文書によると、FSB対外諜報部門は「数日内で首都キーウ(キエフ)を陥落させることができる」との分析結果を報告。ウクライナ側がロシア側から押収した内部資料でも「(侵攻は)2月20日に開始、3月6日に完了」だったといわれる。
 ところが見通しに反しロシア軍は開戦直後から苦戦を強いられ、キーウ周辺からの撤収に追い込まれた。
 FSB内では対外諜報部門第5局の局長らが不正確な情報を報告した疑いで自宅軟禁になり多数の諜報部員が解雇されたとの情報も。プーチンの権力基盤で「シロビキ」と呼ばれる軍・治安関係省庁のメンバーらが厳しく処分されたとすればかつてない異常事態だ。
 外務省から離反の動きも出ている。ロシアの在ジュネーブ国際機関代表部の参事官ボリス・ボンダレフは23日、「ウクライナ侵攻は犯罪だ」とする抗議声明を公表し辞職した。
 外交関係者によると、ロシア政府内では侵攻の是非はおろか、それ自体を口にできない閉塞感が漂っているという。政権の屋台骨がじわりと揺らぎ始めているようだ。(敬称略)
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【連載 侵攻の深層】
 ロシアによるウクライナ侵攻の背景や今後の行方を探ります。

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