<社説>名古屋市が敗訴 表現の自由 公の場でも

2022年5月27日 07時03分
 公の場でも「表現の自由」を保障した判決だ。国際芸術祭「あいちトリエンナーレ2019」の実行委員会が名古屋市に負担金残額の支払いを求めた訴訟で、名古屋地裁は、市側全面敗訴の判決を言い渡した。河村たかし同市長が展示作品を問題視したのが発端だが、判決は「芸術活動を違法と軽々しく断言できない」として、市に未払いの負担金三千三百万円余の全額支払いを命じた。
 愛知県美術館で開かれた「不自由展」では、慰安婦問題を象徴する「平和の少女像」や、昭和天皇の肖像を使った創作物を燃やす映像作品などが展示され、抗議が殺到した。実行委は、大村秀章愛知県知事が会長、河村市長が会長代行だったが、市長は展示内容に抗議して、会場で座り込みを行うなど激しく反発。市が、「不自由展」閉幕後に予定していた負担金残額の支払いを留保したため、実行委が提訴していた。
 訴訟で市長や市は「市民に嫌悪を催させ、違法性が明らかな作品の展示を公金で援助することはできない」と訴えた。判決は「強い政治性を帯びた内容だった」としながらも、「違法」とまでは断定できないとした。さらに、表現の自由に関し「表現活動に反対意見があることは避けられない。芸術は多彩な解釈が可能で、斬新な手法を用いることもある。鑑賞者に不快感や嫌悪感を生じさせるのもやむを得ない」との認識を明確に示した。
 また、公共施設で行われる政治性のある展示に公金を支出したとしても、「政治的な主張の後押しだと一義的に評価されるものではない」とも指摘した。公共的な事業や施設で、政治的なメッセージを持った芸術作品などの展示が敬遠されるケースが散見されることを考えると、意義深いメッセージと言えよう。
 「不自由展」を巡っては、大村知事のリコール(解職請求)運動に発展し、河村市長も先頭に立って署名活動を応援したが、後に、大規模な署名の偽造などが発覚。逮捕者も出る事態になった。
 何らかの表現行為に対して、自己の見解を披歴することには何の問題もないが、河村市長の一連の行動が行政の長にふさわしい冷静な振る舞いだったかといえば、疑問符がつく。控訴を検討しているようだが、訴訟費用も公金であり、慎重に判断してほしい。

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