福島・広島・長崎テーマの3部作 藤沢の画家・山内さん「命の美しさ感じて」 平塚市美術館で展覧会

2022年5月27日 07時21分

左から「天空 昇」、「刻の川 揺」、「牧場 放」の3部作=いずれも平塚市美術館で

 平塚市美術館で開かれている展覧会「けずる絵、ひっかく絵」に、藤沢市の画家山内若菜さん(45)が東京電力福島第一原発事故が起きた福島、原爆が投下された広島と長崎を題材として「命」への思いを込めた三部作を出品している。「命への賛歌こそ、今必要なのではないか。命の大切さ、美しさを感じてほしい」と語る。六月十二日まで。(吉岡潤)
 山内さんは、二〇一一年の原発事故で被ばくした福島県の牧場に一三年から通い、弱って死んでいく牛や馬を目の当たりにし、牧場主の深い悲しみや強い怒りを知った。牧場を制作のテーマにするようになり、動物たちを描くことで命の重みを表現してきた。
 出展作「牧場 放(はなつ)」(二〇年)では、さまざまな動物を色彩豊かに描く。それまでの作品は、牧場を「悲劇の場所」ととらえ、暗いモノクロームだった。時間が経過し「希望を描こう。死を生に反転させよう」と心象が変わったという。

「命より大事なものはない」と語る山内さん

 広島、長崎も巡り、地元の人と話した。「刻(とき)の川 揺(ゆれる)」(二一年)は、広島の原爆ドームや世界平和記念聖堂などが並び、被ばくした少女が未来を思いながら立つ向こうで、不死の象徴であるペガサス(天馬)が傷つきながらも力強く空をかける。長崎を描いた「天空 昇(のぼる)」(同)は原爆投下で破壊され、後に再建された浦上天主堂に向かって、いろいろな動物の体が組み合わさった不死鳥が火の中から飛び立つ。
 和紙をぬらして貼り合わせ、墨や絵の具をこすって削り、しわや亀裂が生じる手法で、ぼろぼろに傷つけられた動物、人、街に自分の心を重ねた。いずれも幅三・一〜三・二メートル、縦三・四〜四・四メートルの大作。「命の大きさ」を表し、不定形には「複雑に結び付いている生命有機体」という意味が込められているという。
 午前九時半〜午後五時、月曜休館。一般二百円、高校生・大学生百円。問い合わせは、平塚市美術館=電0463(35)2111=へ。

◆画家5人 独自の手法

 「けずる絵、ひっかく絵」では平塚市出身の鳥海(ちょうかい)青児(1902〜72)、小田原市にアトリエを構えた井上三綱(さんこう)(1899〜1981)ら5人の画家が、独自の手法で絵の具などを削ったり引っかいたりして完成させた作品を展示。同館学芸員の家田奈穂さんによると、時間の経過を表現するためだったり、人間の精神性を引き出す目的だったり、それぞれ意図がある。「なぜそうしたのかを知り、作品をより深く味わってほしい」と話す。

◆日本独自の写実に焦点 来月5日まで 人形や彫刻、絵画118点

迫力ある安本亀八作「相撲生人形」(1890年、熊本市現代美術館蔵)

 平塚市美術館では、市制九十周年を記念した企画展「リアル(写実)のゆくえ 現代の作家たち 生きること、写すこと」も開催されている。今にも動きだしそうな人形をはじめ、迫真性あふれる彫刻や絵画など百十八点が並び、来場者をうならせている。六月五日まで。
 西洋由来ではない、日本独自の写実に焦点を当てた同展。中でも「生人形(いきにんぎょう)師」の安本亀八(かめはち)(一八二六〜一九〇〇)が手がけた「相撲生人形」(一八九〇年)はひときわ目を引く。高さ百七十センチ。脚や腕の力感、表情の豊かさが技巧をこらして表現されている。
 幕末から明治初期にはやった生人形は日本人だけでなく、来日した西洋人も驚かせたという。亀八とともに作品が展示されている生人形師の松本喜三郎(一八二五〜九一)は日本で初めて義足を作ったとされ、東大医学部の前身である大学東校から人体模型の製作依頼を受け、その出来栄えに同校教員らが感嘆したとも伝わる。
 現代作家の独創的なリアリズムの追求も楽しい。二〇一八年に開いた展覧会で、同館の最多入場者数を記録した深堀隆介さんの金魚を題材にした作品や、満田晴穂(はるお)さんが昆虫を精巧に再現した「自在置物」と呼ばれる金属工芸品などが存在感を放つ。
 鑑賞した市内の小野麻美子さん(60)は「生々しく、引きつけられた。想像以上に楽しかった」とたんのうした様子。同館学芸員の勝山滋さんは「多彩な作品がそろっている。明治時代から現代につながる日本的な写実観に注目してほしい」と話す。
 一般九百円、高校生・大学生五百円。(吉岡潤)

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