せめて罪償ってほしかった…渋谷・幡ケ谷バス停の女性暴行死事件 遺族無念 被告自殺で公判取り消し

2022年5月28日 06時00分

大林さんが亡くなった現場=2020年11月撮影

 東京都渋谷区幡ケ谷のバス停で1年半前、路上生活者の大林三佐子さん=当時(64)=が頭を殴られて亡くなった事件は、被告の男(48)が今年4月に自ら命を絶ち、今月に予定されていた公判は取り消しとなった。埼玉県内で暮らす大林さんの弟(64)は「せめて罪を償ってほしかった。この悔しさをどこにぶつければいいのか」と声を震わせた。(榊原大騎)

◆なぜあんなひどいことを…本心を聞きたかった

 「なぜ、あんなにひどいことをしたのか本心を聞きたかった。もう相手の心境も何もかもが分からない状況じゃないですか。悔しいですよ」
 初公判が開かれる予定だった17日、本来は傍聴席で公判の行方を見守るはずだった弟は、やるせない思いを吐き出した。
 2020年11月の未明、バス停のベンチに座っていた大林さんは、男に石を詰めたポリ袋で頭を殴られ、亡くなった。近くの居酒屋の女性によると、大林さんはこの年の春から、午前1時ごろになるとバス停に現れるようになった。男は警視庁の調べに「痛い思いをさせれば、あの場所からいなくなると思った」と供述したという。
 身勝手な動機の一端。「姉が何をしたというんですか。いつも誰にでも優しく、決して人に危害を加えるようなことはなかった。それなのになんで…」

◆自立心が強くてすごいな

40年ほど前、演劇に打ち込んでいた当時の大林三佐子さん

 広島県で過ごした幼少期、きょうだいで仲良く遊んだ思い出は多くない。明るく活発な姉と、一人でいるのが好きだった弟。姉が地元の短大時代に演劇に打ち込み、卒業後はアナウンサーになるための勉強をしている姿を「自立心が強くてすごいな」と眺めていた。
 姉は20代で結婚と離婚を経験し、東京でコンピューター関連の仕事に就いた。弟も関東地方で仕事をしており、電話でときどき「元気にしている?」と話したり、はがきのやりとりをしたりしていたが、近年は音信が途絶えていた。
 最後に会ったのは14年ごろ。体調を崩して入院していた姉を見舞うと、「だいぶ良くなったよ」と笑顔が返ってきた。

◆自分がもっと連絡を取っていれば…

 捜査関係者によると、大林さんは17年ごろ、家賃滞納で都内のアパートから強制退去させられた。姉が路上生活を送っていたことを弟が知ったのは、事件の後だった。

保釈中だった被告の男の自殺で公判が取り消されることになり、無念の思いを語る大林三佐子さんの弟=東京都内で

 今も事件当時のままのバス停。夜になると人通りもまばらな大通りに、ほのかな明かりを放つ。大林さんは桃色の服をよく着ており、ベンチで背中を折り曲げて寝ていたという。
 その姉を襲った男の自殺に、弟は「そんな逃げ方が許されるんですか。正々堂々と法廷に出てきて謝ってほしかった。自分がやったことの責任は果たしてほしかった」と語気を強める。
 残ったのは後悔だけ。「なぜあの優しい姉が、こんな死に方をしなければならなかったのか。自分がもっと連絡を取っていれば、助けを求めてくれていたんじゃないか。かわいそうなことをしてしまった」と言葉を絞り出した。

 東京・幡ケ谷の路上生活者傷害致死事件 2020年11月16日午前4時ごろ、東京都渋谷区幡ケ谷のバス停ベンチで、路上生活者の大林三佐子さんの頭を殴って死亡させたとして、近所の男が傷害致死容疑で逮捕された。大林さんの境遇に身を重ねた人たちが、「彼女は私だ」と非正規雇用を巡る状況や暴力に抗議する動きも生まれた。男は保釈中の今年4月8日、自宅近くで死亡。警視庁は自殺とみている。

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