プーチン氏の誤算…北欧2カ国が「中立」放棄 NATO拡大への怨念が真逆の結果を招いた

2022年5月28日 06時00分
19日、米ホワイトハウスで、バイデン大統領(右)が見守る中、スウェーデンのアンデション首相(中)と握手するフィンランドのニーニスト大統領=AP

19日、米ホワイトハウスで、バイデン大統領(右)が見守る中、スウェーデンのアンデション首相(中)と握手するフィンランドのニーニスト大統領=AP

<侵攻の深層 ④>

◆「ロシアへの信頼は崩壊した」

 「(国の)安全を確保しつつ、ロシアとの関係を維持する伝統的な政策への信頼は崩壊した」
 ロシア軍によるウクライナ侵攻に強い危機感を抱いたフィンランドの大統領ニーニストは17日、スウェーデン議会で演説。翌18日には同国と歩調を合わせ歴史的な「軍事的中立」を放棄し、北大西洋条約機構(NATO)への加盟を同時申請した。
 ニーニストの言葉には、牙をむいた軍事大国ロシアに対するフィンランド人の恐怖感がにじむ。ヘルシンキ大の政治学者イロ・サルッカは英BBC放送の取材に、フィンランド人にとって「冬戦争(第1次ソ連・フィンランド戦争)の追体験に似ている」と語る。

◆ロシア軍の残虐行為に「中立では国を守れない」

 独裁者スターリンが支配する旧ソ連は1939年、フィンランドに侵攻。フィンランド軍は善戦したものの、領土の約1割に当たるカレリア地方を割譲せざるを得なかった。2年後の「継続戦争」でもナチス・ドイツと組んで敗北した。
 苦い体験を重ねた結果、大戦後は独立と民主体制を維持するため「フィンランド化」と呼ばれるソ連(ロシア)を刺激しない中立政策を採った。
 主権国家の存亡を懸けた実利的な選択だったが、プーチンの暴挙によって対ロ融和策の限界が露呈。西側外交筋は「ロシア軍の残虐行為を目の当たりにして『中立では国を守れない』と分かり、国民の意識が大きく変わった」と指摘する。
 ソ連崩壊後、東欧やバルト三国はNATO加盟を選択。帝国的な姿勢が見え隠れするロシアへの警戒感は弱まらなかった。ウクライナも2014年にクリミア半島が併合された後、19年の憲法改正でNATO加盟の方針を明記した。

◆政権中枢占める「被害妄想的世界観」

 一方、ロシア側は「NATOの東方拡大は安全保障上の脅威だ」と正反対の主張を続ける。米国主導のNATOがロシアを包囲し、軍事的・非軍事的手段で絶えず攻撃を仕掛けてくる—。今もプーチン政権の中枢を占めるのは、パラノイア(被害妄想)的な世界観をたたき込まれた旧ソ連国家保安委員会(KGB)出身者ばかりだ。
 ロシアは昨年来、ウクライナ国境に軍部隊を集結させ、「東方不拡大」を文書で保証するようNATO側に要求。それが拒否されたことで全面侵攻につながった。しかし皮肉にもNATOは北欧2カ国を取り込みさらなる東方拡大を招く最悪の結果になった。
 英国王立防衛安全保障研究所(RUSI)リサーチフェローのエド・アーノルドは「プーチンは欧州の結束を過小評価していた。ロシアにエネルギーを依存する欧州が、分裂せずにこれほど団結するとは計算していなかった」と分析する。

◆不退転の決意「真実は私たちの側にある」

 それでもプーチンが妥協に転じる気配は一切ない。
 「西方からの軍事的脅威は一層高まった」。国防相ショイグは20日、北欧2カ国のNATO加盟申請に対する対抗措置として、首都モスクワを含む西部軍管区で年内に12の部隊を増強すると発表した。
 プーチンの腹心である安全保障会議書記パトルシェフは24日付のロシア大衆紙「論拠と事実」(電子版)のインタビューで「大統領が掲げた目標は全て達成されるだろう。真実は私たちの側にあり、そうならなければいけない」と不気味な決意を語った。戦争の「終わりの始まり」の兆しはまだ見えない。=おわり(敬称略)
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【連載 侵攻の深層】
 ロシアによるウクライナ侵攻から24日で3カ月。プーチン氏が全面侵攻に踏み切った理由をひもとき、今後の行方を探る連載を4回にわたり掲載しました。

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