折り畳み式スロープを地域でシェア、「段差を気にせず出かけられる街に」 爆発事故被害の女性、飲食店などと協力

2022年5月29日 06時00分

シェアスロープについて話す認定NPO法人「ココロのバリアフリー計画」の池田君江理事長(手前)

 車いすやベビーカーで段差を乗り越えるための折り畳み式スロープを飲食店などに置き、近くの店や住民にも無料で使ってもらう取り組みを、東京都内の認定NPO法人が始めた。理事長の池田君江さん(47)=世田谷区=は15年前、渋谷区の温泉施設で起きた爆発事故で下半身不随になり、車いす生活に。「スロープのシェアを広め、やさしい街づくりにつなげたい」と話す。(奥野斐)

◆温泉施設事故で車いす生活に

 池田さんが事故に遭ったのは2007年6月。勤め始めたばかりの温泉施設で、同僚と遅めの昼食をとっていた。突然、爆風で飛ばされ、気付いたら休憩室のロッカーに挟まれていた。「一瞬の出来事で音も痛みも分からなかった。見上げると屋根はなく、ヘリコプターが見えた」
 自分の足が見えたが、「誰の足だろう」と思った。感覚がない。中学生だった娘の帰宅が心配になり、救急隊員が夫に連絡したのを確認したところで意識を失った。目を覚ました病院で医師は「生きているだけで奇跡」と説明した。骨折13カ所と脊髄損傷の大けがだった。

シェアスロープについて話す認定NPO法人「ココロのバリアフリー計画」の池田君江理事長

 約半年間の入院中から前向きにリハビリに励み、退院後は車いすで出かけるようになった。でも、外に出ると、車いすで進めない場所だらけ。バリアフリーを掲げる店で「他のお客さんの迷惑になる」と入店を断られたこともある。
 ある日、家族と訪れた近所の飲食店で、段差や狭い通路も店員に手助けしてもらい、楽しい時間を過ごせた。「『どう手伝ったらいい?』と聞いてくれたのがうれしかった。『トイレは狭い』と言っても、車いすの幅は人それぞれで、入れる場合もある。お店側の歓迎する気持ちと、情報があれば、自分たちで判断できる」と池田さんは話す。
 こうした経験から13年にNPO法人「ココロのバリアフリー計画」を設立。車いす利用者も歓迎する「応援店」を募り、段差数やトイレの幅、手すりの有無などを掲載するウェブサイトを作った。今では約3000店の情報が検索できる。

 渋谷温泉施設爆発事故 東京都渋谷区の女性専用温泉施設「シエスパ」で2007年6月19日午後2時半ごろに発生。従業員休憩室や温泉くみ上げポンプのある別棟で爆発が起き、女性従業員3人が死亡、従業員や通行人らが重軽傷を負った。温泉水に含まれるメタンガスが施設内に漏れ出して引火したとみられる。

◆お客さんもスタッフも楽

 今年1月には、必要な時に誰でも手軽に使える「シェアスロープ」を店に置き始め、現在は大阪や都内の上野、赤坂などの5店舗に導入された。畳むと長さ120センチ、幅35センチ、厚さ8センチほどで、重さ約6キロ。電動車いすなど300キロまで耐えられる。

畳むことができるシェアスロープ

 4月からシェアスロープを置く台東区の飲食店「下町バル ながおか屋」では、これまで入り口の2段の段差をスタッフが車いすを持ち上げて案内していた。出和樹さん(63)は「スロープがあると、お客さんもスタッフもお互い楽。お店を利用する気持ちのハードルが下がるのでは」と言う。
 池田さんは15年前に事故に遭うまで、車いすに乗ったことも、利用者を手助けしたこともなかった。「少しの手伝いや『また来てくださいね』という言葉がうれしいと気付いた。優しいお店や場所を増やし、誰もが出かけやすい社会にしたい」と語る。

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