都電沿線に「インド映画の聖地」 開店10年目に映画配給への挑戦開始 踊るだけじゃない奥深い魅力とは?

2022年5月29日 06時00分

 都電がのんびり走る東京・下町の住宅街に「インド映画の聖地」がある。主に南インド地方で使われるタミル語で「ありがとう」を意味する言葉が店名の料理店「なんどり」(東京都荒川区西尾久)。直輸入DVDの販売や日本語字幕の製作などでインド映画の奥深さを伝えている。開店から10年目の今年は、上映機会に恵まれない名作の全国公開を目指した配給業に乗り出す。(太田理英子)
 野菜やスパイスがたっぷりの薬膳料理が評判のなんどり。約20平方メートルのこぢんまりとした店内には、インド映画に関連したDVDやポスター、書籍や雑誌がずらりと並び、全国からファンが訪れる。
 1998年に日本公開され、空前のインド映画ブームを巻き起こした「ムトゥ踊るマハラジャ」に夢中になった稲垣紀子さん(51)が、夫の富久さん(56)と2013年にオープンした。

「日本とインドの懸け橋になりたい」と話す稲垣紀子さん㊧と富久さん夫妻=東京都荒川区の「なんどり」で

 製作本数が世界一の映画大国・インドでは、スタジオ集積地のムンバイ(旧ボンベイ)が、米国のハリウッドになぞらえた「ボリウッド」の愛称で知られるが、「ムトゥ」は南インドで製作された。言葉は、ボリウッドのようなヒンディー語ではなくタミル語だ。
 「ムトゥ」の感動をきっかけに南部を中心にインドを何度も旅した稲垣さんは、ひとくくりにできないインド文化の多様性を実感した。南インドの映画は「ローカルな世界を描き、土地らしさと迫力にあふれた作品が多い」と知った。
 なかでも強い衝撃を受けたのが、18年秋の東京国際映画祭で上映された「世界はリズムで満ちている」だった。南インドの貧しい青年が伝統の太鼓「ムリダンガム」奏者を目指す物語。背景にカースト制度の問題が描かれる。当時のインド映画がカーストに触れるのは珍しかった。「歌って踊るインド映画のイメージを踏襲しつつ、差別問題に踏み込んでいる。困難に直面しても、いちずに夢への思いを貫く主人公の姿にひかれた」と振り返る。

映画「響け!情熱のムリダンガム」で主人公(左)が古典音楽の太鼓を習う場面(提供・Mindscreen Cinemas)

 稲垣さんは海外の業者から依頼を受けて、南インド映画のDVDに日本語字幕をつける活動をしている。「世界はリズムで満ちている」もタミル語を日本語に翻訳する協力をした。
 その後、映画を語るオンラインイベントで知り合った監督から勧められ、国内で映画を上映するための配給権を取った。「響け!情熱のムリダンガム」と改題し、渋谷区の「シアター・イメージフォーラム」(10月)と、北区の「シネマ・チュプキ・タバタ」(11月以降)で公開する。稲垣さんは「インド文化が好きな人、研究者らをつなぐイベントも企画し、日本とインドの懸け橋になりたい」と意気込む。
 宣伝費の一部をまかなうためクラウドファンディングで寄付を呼び掛けている。6月30日まで。

関連キーワード


おすすめ情報

東京の新着

記事一覧