78歳警備員が24時間勤務 「人生100年時代」でも安全対策後手に 高齢労働者「労災死傷」も最多

2022年5月30日 06時00分
 労災死亡者に占める60歳以上の高齢者の比率が4割を超えた。けがも含めた高齢者の「労災死傷」も昨年は3万7813人と過去最多を記録し、比率は25%になった。年金の支給年齢引き上げや企業への雇用延長の義務付けなど、「人生100年時代」のスローガンの下、高齢者の労働継続を促してきた政府だが、肝心の安全対策は後手に回っている。(編集委員・池尾伸一)
 「仕事が厳しいなんて言ってられない。稼がないと生きていけない」
 埼玉県内で妻と2人で暮らす78歳の男性は言う。受け取る年金は月8万円。月4万円の家賃も払わねばならず、派遣の警備員として病院で働く。
 午前8時から「24時間勤務」の日もあり、夜通しで働くことが多い。月収は14万円。きつい仕事だが、男性は「この年になると仕事は少ない。続けるほかない」と言う。
 年金支給開始年齢の引き上げに加え、物価上昇で高齢者の暮らしは苦しくなる一方。だが若い世代に比べて就職の門戸は狭い。
 「高齢者ほど厳しい環境で働いているようになった」。労働局の労働基準監督官出身の社会保険労務士、原さとしさんは実感している。
 現場を回ると安全管理態勢の不備を感じることも多い。「高齢者がヘルメットをかぶらず屋根に上っていたり、重機のそばで作業していたり…。会社が安全教育をしていないケースが散見される」
 身体能力の落ちた高齢労働者の安全を確保するには、階段への手すり設置や「安全靴」の導入などハード面の対策も不可欠。だが、「きちんと対策している企業は限られている」(原さん)という。
 高齢者は正社員としてでなく、パートや派遣など非正規として雇われていることが多く、これが「安全格差」の放置につながっていることも見逃せない。非正規雇用の高齢者は、定期健康診断を受けていない人も多い。
 新潟県で今年2月の深夜、米菓大手「三幸製菓」の工場が全焼した火事では、死亡した6人のうち4人が60~70代の女性で、夜勤のアルバイト清掃員。日中に行われていた年2回の避難訓練に、参加していなかった。
 厚生労働省は2020年3月に「エイジフレンドリーガイドライン」と呼ばれる企業への指針を公表。企業に高齢労働者の体力・健康状態の把握や職場環境を整備することを求め、補助金制度も新設した。
 だが、あくまで企業の自主性に委ねた政策で、高齢者の労災事故を減らす歯止めになっていない。
 今後は、団塊ジュニア世代の高齢化も進み、高齢労働者はさらに増える。労災事故に詳しい尾林芳匡弁護士は「高齢者への配慮があれば防げた事故が多い。法令で義務化するなど対策の徹底が必要だ」と話す。
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