書き終わるまで帰れません 「原稿執筆カフェ」 @高円寺

2022年5月30日 07時10分

カウンター席で黙々と執筆する客たち=いずれも杉並区で

 「原稿が終わるまで退店できない」。新聞記者なら震え上がりそうなカフェが杉並区の高円寺に出現した。その名も「原稿執筆カフェ」。奇抜なコンセプトで海外メディアからも注目を集める人気スポットになっている。

ドキドキ…いざ入店

 JR高円寺駅から徒歩五分。目の前に環七が走る交差点の角にカフェはある。入店時に「三時間で三千文字の原稿を書く」など作業目標と利用時間を申告。目標を達成するまで帰ることはできない。料金は一時間三百円で、三十分延長ごとに百五十円。コーヒーと水は飲み放題。
 今月下旬、記者もこの記事を書くため「三時間で千二百字」を目標に掲げ入店した。三角形の店内にはカウンター席が十席。すでに七席が埋まっていた。全員無言で、パソコンのキーボードを打つ音だけが鳴り響き、静かな緊張感に包まれている。

原稿を書き終わるまで退店できない「原稿執筆カフェ」

 小説の推敲(すいこう)に取り組んでいた小説家の吉川丸子さんは先月に続いて二回目の利用。「ほかの人も頑張っているので集中できる。家にいるより断然はかどる」と話す。
 コンセントはもちろん、高速Wi−Fiも利用でき、調べものや仕事先からのメール返信もサクサク。
 原稿はチェーン店のカフェでも書けるが、隣の人の会話に気を取られ、結局一文字も書けなかったという経験をした人も多いはず。

ボードに張られた利用者の作業目標

 原稿執筆カフェでは店長が一時間ごとに「進捗(しんちょく)いかがですか?」と、お菓子(無料)を配りながら確認してくれる。声かけの頻度は「マイルド」「ノーマル」「ハード」の三コース。「順調です」「あと七十字で完成です」などと答えると「頑張ってください」と励ましてくれる。目標を達成した人が「おめでとうございます」と祝ってもらっている。何だかうらやましい。
 「何かを生み出すクリエーティブな空間にしたかった。目標の達成を応援したい」と同店プロデューサーの川井拓也さん(52)は話す。
 以前は動画配信スタジオだったがコロナ禍で利用は激減。テイクアウト商品を持ち込んで食べられるカフェ、動画編集カフェなど試行錯誤の末にたどり着いたのが原稿執筆カフェだった。

店長(右)「進捗いかが?」

 知り合いの脚本家から「静かに作品が書ける場所があったらいい」と聞き、原稿を書く人向けに特化した。
 開業にあたり自身のツイッターで「締め切りに追われていない人は入場できません」とつぶやき、なぜか英訳されて拡散。
 今年四月七日に開業するや、ロイター通信や英BBCなど海外メディアが取材に訪れ、「コンセプトがクール」だと話題になり、利用者が一気に増えた。
 利用目的は雑誌、ブログの執筆だけではなく、漫画作画、論文執筆、同人誌執筆からイラスト作成、動画編集と幅広い。
 「ここで素晴らしい作品が生み出されていると思うとわくわくする」と川井さん。
 さて、この原稿、普段は少しずつ書き進めるタイプなので一週間ぐらいかかるのだが、三時間で書き上げてしまった。確かに会社や家よりも集中力が上がった。そして何より名前も知らないが、原稿を書くという共通点でつながった仲間がいることが心強かった。
 ◇ 
 住所は杉並区高円寺北2の1の24 村田ビル1階。営業日時や予約は「原稿執筆カフェ」で検索。
 文・砂上麻子/写真・隈崎稔樹、砂上麻子
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