<ドキドキ!サイエンス>(1)日本は産油国になれる

2022年5月30日 07時40分
 「日本は産油国になれる」
 藻類研究で知られる筑波大元教授で、同大発ベンチャー「MoBiolテクノロジーズ」会長の渡辺信さん(74)は、そう確信している。
 海や池にいる小さな藻類には、石油に似た成分のオイルを作る能力がある。その能力を上手に引き出せれば、原油輸入量を大幅に上回るオイル(バイオ原油)が、低コストで生産できるというのだ。
 実は、中東の石油資源も藻類由来だ。約一億年前に大繁殖した藻類が海底に沈み、高温高圧下で石油になったとされる。だから、藻類を使ったオイル生産は古くから試みられてきた。渡辺さんも約十五年前から研究に取り組み、藻類の原油化には成功していた。課題はコストだったが、展望が開けつつある。
 その鍵を握るのが、下水処理場で藻類を培養し、下水の浄化とバイオ原油生産の二つを行う一石二鳥の方式である。
 藻類というと光合成で増えるイメージが強いが、渡辺さんが目を付けたのは、光合成に加え、外部から有機物も取り込んで増える混合栄養藻類だ。
 混合栄養藻類は下水に含まれる有機物や窒素、リンを栄養素として取り込んで増える。その結果、水は浄化される。光合成により、大気中の二酸化炭素(CO2)も取り込む。こうして増えた混合栄養藻類を濃縮し、高温・高圧で処理する(水熱液化という)と、バイオ原油に変換できる。
 「藻類の肥料代も下水処理費も削減できるので、原油価格並みのコストでバイオ原油が生産できそうだ。脱炭素社会の構築にもつながる」と渡辺さん。
 ただ、培養する藻類が一種類だと、気温や日照など環境変化に増殖が左右され、冬場は生産が難しいなどの問題が生じる。そこで渡辺さんは、下水処理場がある土地にすむ多様な混合栄養藻類の活用を思いついた。雑草ならぬ「雑藻」だ。雑藻は季節ごとに増殖する種類が変わるので、結果的に年間を通して生産が安定すると予想した。
 渡辺さんは茨城県の協力を得て、県の小貝川東部浄化センター(筑西市)で二〇一九年から実証実験を開始。下水の一次処理水で雑藻を培養したところ、季節を問わず安定して増えた。光合成だけで増える藻類は、深さ二十センチ以内のタンクでないと光が足らず増殖が難しいが、雑藻は深さ一・四メートルでも増えた。
 実験データを基に試算したところ、日本の下水処理場の総面積(百三十七万ヘクタール)の一割を使って藻類を培養すれば、日本の年間原油輸入量(約一・四億キロリットル)に匹敵するバイオ原油が生産できるという結果が出た。
 もちろん、すぐに実用化できるわけではない。どんな藻類の組み合わせが最適なのかを調べたり、培養液の濃縮やバイオ原油への変換を効率化したりする必要がある。水熱液化の副産物の窒素やリンの利用も求められる。それらを乗り越えても、一連の工程を統合したパイロットプラントシステムでの検証が待っている。
 だが、国の支援で課題解決に取り組む道筋ができた。渡辺さんを中心とした筑波大などの共同研究体は、国土交通省が公募した下水道応用研究事業に藻類バイオ原油生産を提案。三月に採択が決まった。提案を審査した評価委員会では「有意義な研究だ」「応援したい」などの意見が出た(同省下水道国際・技術室)という。県下水道課も「下水が持つ資源・エネルギーの有効活用が全国的に求められている」と、協力的だ。
 「成功すれば、藻類燃料の技術開発で世界をリードできる」。そんな渡辺さんの夢がかなう日が来ると期待したい。
      ◇
 私たちの生活に密着したものから、研究者のこだわりが光る少し変わったものまで−。新連載「ドキ時(ドキ)! サイエンス」では、筑波大(つくば市)が取り組む自然科学研究の面白さや奥深さを、科学記者出身の鴨志田公男教授が易しく紹介します。原則最終月曜日に掲載します。
<かもした・きみお> 1961年、水戸市生まれ。県立水戸一高、京都大理学部卒。毎日新聞社で東京本社科学環境部副部長、論説委員などを務めた。2019年から筑波大教授(サイエンスコミュニケーター)。「筑波大学新聞」編集代表。

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