「待っているだけじゃ社会は変わらない」 昨秋の「ヤシノミ作戦」狙いと成果は<民主主義のあした>

2022年5月31日 12時00分

記者会見する(左から)「NO YOUTH NO JAPAN」の能條桃子代表理事、エッセイストの小島慶子さん、「サイボウズ」の青野慶久社長=2021年10月21日、東京・霞が関の厚労省で

 昨秋の衆院選で、ツイッターなどの交流サイト(SNS)を中心に展開された落選運動「ヤシノミ作戦」。選択的夫婦別姓と同性婚の2テーマに絞り、反対する候補者や裁判官のリストを示した。こうした運動をネガティブに捉える見方もある。しかし運動に関わった人たちは「多様性のある社会を目指そうという意思表示の一つ」と強調する。

最高裁裁判官の国民審査に合わせツイッターで発信した杉原理恵さん

 「#長岡村の深い林」。ヤシノミ作戦に賛同した東京都の団体職員杉原理恵さん(38)が昨年10月、最高裁裁判官の国民審査に合わせて作ったツイッターのハッシュタグ(検索目印)だ。夫婦別姓の選択肢を認めない現行制度を「合憲」とした4人の姓(長嶺、岡村、深山、林)をつなげ、罷免するよう発信した。
 国民審査は、辞めさせたい最高裁裁判官に「×」を付けることで、国民が直接審査できる権利。「憲法の番人」「人権の砦」といわれる最高裁が適切に機能しているかチェックする、民主主義を支える仕組みで、衆院選と同時に行う。「×」が有効投票の過半数なら罷免。昨秋の審査では、15人の裁判官のうち、任命後初の衆院選となった11人が対象だった。
 ハッシュタグは、審査用紙の掲載順に「#長岡村の林は深い」に変わり、著名人も投稿して拡散された。審査では11人の裁判官全員が信任されたものの、「×」の数の上位4人はハッシュタグに織り込まれた裁判官。最も高い不信任率は7.82%で、リスト外の7人は7%未満だった。
 杉原さんは20代のころ、別姓を望む友人に冷めた見方をしていた。だが数年前、自身の結婚で夫婦ともに改姓したくないと思い、事実婚に。結婚式では「上座は新郎の親族」「あいさつは夫の後」と言われ、夫の姓で呼ばれることにもうんざりした。気候変動問題に取り組む研究機関への転職も重なり「待っているだけじゃ、社会は変わらない」との意識が強くなった。
 それで昨秋「#長岡村の深い林」を発案した。選択的夫婦別姓を求めるにしても、デモや訴訟はハードルが高い。カジュアルに意思決定者に声を届ける手段の一つになればとの思いだった。自身も初めて、国民審査で「×」を付けた。

「ヤシノミ作戦」のウェブサイト(スクリーンショット)

 エッセイストの小島慶子さん(49)は昨秋、ヤシノミ作戦を始めた青野慶久さん(50)の賛同者として、記者会見に加わった。自身のツイッターなどでも、作戦について発信した。
 「選挙での意思表示には『この人がいい』と『この人は議員になってほしくない』の両方あっていい。『誰を選べばいいか分からない』『どの人がやっても同じ』との声を度々聞く。そんな時は『誰に投票したくないか』を決める方がわかりやすい」と小島さん。
 インターネットでは「後ろ向きな気がする」「反対意見の人がいるなら説得して、賛成に転じさせるべきではないか」といった趣旨の、落選運動に否定的な主張も上がった。また「夫婦別姓問題だけではなく、政策全般から投票先を判断すべきだ」という反応もあった。
 ヤシノミ作戦では、選択的夫婦別姓制度や同性婚に「反対」の248人をリストアップした。青野さんによると結果は84人が落選、当選は比例復活を含め164人だった。青野さんは「小選挙区で落選した議員が多く、手応えはあった」と話す。
 夏の参院選(改選124議席)に向け、選択的夫婦別姓と同性婚について改選となる現職議員がどう考えているかは、すでにまとめた。さらに「他の政策に関心のある人が、新しいテーマのヤシノミ作戦を展開してほしい」と青野さん。
 ロシア軍のウクライナ侵攻で、参院選では安全保障や防衛政策も争点の一つになる。小島さんは「感情を揺さぶる出来事は、選挙に利用されやすい。『この人には入れない』という落選運動の視点は重要」と語る。(奥野斐)

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