<ぱらぱらじっくり 教育に新聞を>都心から360キロの青ケ島中は電子版でNIE 記事で学ぶ「別の視点」

2022年5月31日 07時19分

青空の下の青ケ島小中学校校舎。小学校も併設されている(写真は学校提供)

 東京都青ケ島村。ここは都心から約三百六十キロ南。伊豆諸島の小さな島だ。物流事情の制約があるので、新聞の朝刊も毎朝定時に宅配されるというわけにはいかない。
 そんな絶海の孤島だが、青ケ島中学校の在校生徒三人はデジタル新聞の東京新聞電子版を活用したNIEに取り組んでいる。インターネットを通して読める電子版なら、悪天候で船やヘリが欠航しても都心と同じ最新の紙面が生徒のタブレットに届く。
 取り組みの一つが「スクラップメモ」だ。教師から指示された新聞記事を読むのではなく、生徒が興味・関心のある記事を自分で選び、見出し・要約・自分の意見の三点を書き出す。授業のはじめに生徒がメモを基に発表し、教師と一対一で議論を交わしてみる。タイムリーな時事問題を題材に、さまざまな視点から十分ほど話し合う。
 三年生の授業。男子生徒は「乳児暴行死 母無罪」という記事を取り上げた。神奈川県で女性が幻聴の影響でわが子を死なせた事件。生徒は当初、「子どもがかわいそう。いくら幻聴の影響があったとはいえ無罪になるなんて考えられない」と、母親の行為を全面否定する姿勢だった。生後一カ月の乳児が抵抗もできず亡くなったことを想像すれば無理もない反応だろう。
 しかし、ここで終わっては学びが深まらない。「どうすればこの事件は防げたのだろうか」と問いかけてみた。ただ単に「悲しい事件」「つらい事件」といった感情論で終わらせずに、冷静に考えをめぐらせてもらうためだ。
 すると生徒は新聞記事をもう一度丁寧に読み返した上で「幻聴が聞こえるほど母親は疲れていたのかもしれない」「家族や医者など、周囲の人が気づいてあげられればよかったのでは」と話した。当初の考えとは別の視点から、事件の背景に想像力を働かせ、母親の立場にも寄り添って考えてみることができた。
 青ケ島中学校の在校生三人は、各学年に一人ずつ。授業で同級生と意見交流する機会がない。そのため自分の考えを他者の視点で振り返る機会をつくりにくい。だが、教師と一対一だからこそ、じっくりと考えを深めることもできる。この教育環境を前向きに生かすためにも、スクラップメモは有効だと思う。
 議論を重ねることで、生徒はさらなる疑問を抱く。それが新たな記事を読むモチベーションになっているようだ。いったい次はどの記事をスクラップしてくるだろうか。私も毎日の新聞に目を通しながら、生徒一人一人の顔を思い浮かべている。 (青ケ島中学校国語科教諭 金子太翼(たいすけ))

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