<羽ばたく国産手術ロボ ヒノトリが描く未来>(上) 技術「開放」 中小病院、導入に弾み

2022年5月31日 10時23分

ヒノトリを使った腹腔鏡手術

 手術の精度を高められるよう、医師を助ける手術支援ロボット。市場をほぼ独占してきた米国製「ダヴィンチ」の主要技術の特許が二〇一九年に切れたことを受け、初の国産機「hinotori(ヒノトリ)」が、国内の医療現場で活躍し始めている。現状や可能性を、現場の医師、研究者の声から、二回に分けて探る。 (植木創太)
 三月中旬、病床数二百弱と中規模の名古屋セントラル病院。前立腺がんを患う七十代男性の腹腔(ふくくう)鏡手術が、同病院では初めてヒノトリを使って行われた。
 コントローラーを握り四本のロボットアームを操るのは、執刀医で泌尿器科長の黒松功さん(57)だ。腹部に開けた小さな穴から、アームの先の内視鏡や手術器具を患部に入れていく。五時間をかけて丁寧に前立腺を切除。これまでに同様の手術を五件成功させた。
 黒松さんによると、腹腔鏡手術は、開腹手術に比べて出血量が少なく、患者の負担が小さいのが利点。ただ手の動きが難しく、熟練するには訓練が必要だ。一方で、支援ロボットのアームの動きは精密で手ぶれもない。アームに付いた手術器具の可動域も二七〇度と人の腕より広いため、狭い空間で、繊細な処置が必要な前立腺がんの手術は支援ロボットの利用が主流に。厚生労働省によると、一九年度は約八割を占める。

執刀医の黒松さんは手前でアームを操作する=3月中旬、名古屋セントラル病院で

 支援ロボットの世界市場は長く、米インテュイティブサージカル社のダヴィンチの一強。価格競争が進まず、国内での利用は数億円ともされる導入費や維持費を賄える大規模病院、多くの手術が見込める大都市圏の病院に限られてきた。黒松さんは「手術になると、ダヴィンチのある病院を選ぶ患者が多かった」と話す。
 ダヴィンチの基本特許が切れた翌二〇年に国の認可を得たヒノトリは、そうした状況を変えるかもしれない。開発したのは、川崎重工業と医療機器大手シスメックスが共同出資する医療機器メーカー「メディカロイド」(神戸市)。名前は医師でもある漫画家の手塚治虫さんの代表作「火の鳥」にちなみ、日本から羽ばたき、世界の医療に貢献するという願いを込めた。
 特徴は、川崎重工業が半世紀にわたって培ってきた産業用ロボットの技術を生かし、狭い手術室でも使いやすいようコンパクトに設計されている点だ。アームの太さは人間の腕と同じぐらい。八つある関節で小回りがきき、アーム同士、アームと手術台横の助手がぶつからないようになっている。また、開発の壁になっていた特許の壁が取り払われて多くのメーカーが参入すれば、中小の病院にとっては今後、導入費用を低く抑えられる期待がある。
 メディカロイドによると三月末現在、全国で十八機が稼働中。これまでに二百以上の手術に成功した。ただ、公的医療保険の適用対象になっているのは現状、前立腺がんの切除手術を含む泌尿器科領域だけ。消化器や呼吸器、心臓などの手術でも適用を受けるダヴィンチに比べるとこれからだが、昨秋には婦人科や消化器外科の領域にも適用を広げる申請を済ませた。同社は三〇年度には売上高で一千億円を目指すとする。
 ロボット支援手術のパイオニアで藤田医科大先端ロボット・内視鏡手術学講座主任教授の宇山一朗さん(61)は「機種が増えれば、技術の革新も進んで品質は高まる」と指摘。その一翼を担うのがヒノトリだ。「技術者が国内にいて、日本の現場の声を反映させやすい機種が出てきた意義は大きい」と話す。

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