<羽ばたく国産手術ロボ ヒノトリが描く未来>(下) 遠隔手術 経験・担い手不足補う

2022年6月1日 08時28分

遠隔でヒノトリを操作する宇山さん(手前)=愛知県岡崎市の藤田医科大岡崎医療センターで(いずれも同大提供)

 藤田医科大(愛知県豊明市)で昨年五月、国産手術支援ロボット「hinotori(ヒノトリ)」を使って実施された遠隔手術の実証実験。秒速10ギガバイトの専用回線でつなぎ、約三十キロ離れた同大岡崎医療センター(同県岡崎市)から、豊明側のヒノトリを操作。模型の胃を切除した。
 遠隔手術は通信環境によって、操作とロボットの動きにずれが出る。安全性を考慮すると、ずれは〇・一秒以下にする必要があるとされる。安定した専用回線を使った実験では、ずれを〇・〇二七秒まで抑えられた。「現場で操作している感覚だった」と、執刀した同大先端ロボット・内視鏡手術学講座の宇山一朗教授(61)は手応えを話す。
 ヒノトリの開発責任者で医療機器メーカー「メディカロイド」(神戸市)参与の北辻博明さん(55)は「サイバーセキュリティー対策などの課題もあるが、実現まではもうすぐ」と力を込める。同社は昨春、神戸大やNTTドコモとともに、専用回線の代わりに、高速で大容量のデータをやりとりできる第五世代(5G)移動通信システムを使った遠隔手術の実験も始めた。
 なぜ遠隔手術が必要なのか。宇山さんによると、そこには日本の医療事情が影響している。
 一つは、主要七カ国で最多とされる八千三百という病院数だ。国民皆保険制度によって、どこでも、誰でも医療を受けられるのが良さだが、症例が分散しやすいデメリットも。せっかく患者の体への負担が少なく、安全性も高い支援ロボットを備えていても、執刀の経験を重ねるのは難しい。
 もう一つは、不規則な勤務時間などが敬遠され、手術の担い手である外科医が増えないことだ。二〇二〇年の国の医師・歯科医師・薬剤師統計によると、全体の医師数はここ十年で四万人ほど増えているにもかかわらず、外科医は二万八千人ほどで横ばいが続く。加えて、二四年度から時間外労働の上限規制が医師にも適用されることを考慮すると、特にもともと外科医の数が少ない地方ではこなせる手術数が減りかねない。

遠隔操作で動くロボットアーム=愛知県豊明市の藤田医科大で

 遠隔手術が実現すれば、熟練医師が遠方から、経験が足りない医師に手本を示しながら操作することが可能に。また、地方にいながら熟練医師の最先端の技術に触れられることは、都市部に医師が偏在する現状を打破する手だてになるかもしれない。先発機種の米国製「ダヴィンチ」に比べ、国内の病院の大半を占める中小施設も、サイズや費用の面で導入を検討しやすいヒノトリは、そうした可能性を秘めている。
 ただ、実際に執刀するには、万一の際の責任を持つのは遠隔術者か、または現地の医師かを含め、枠組みの整備が必要だ。日本外科学会は一九年に「遠隔手術実施推進委員会」を設置。今年四月には、実施に必要な要件をガイドライン案としてまとめた。具体的には、結果への責任は基本的に現地の医師や病院が負うとし、詳細は文書で合意するよう要請。遠隔術者は関連学会による熟練指導医認定を受けていること、現地の術者や医療スタッフにも専門講習を求めるなどの内容で、年度内には公表される見込みだ。
 ガイドライン案作成委員の一人でもある宇山さんによると、ダヴィンチを生んだ米国は訴訟社会で、遠隔手術へのニーズは低い。その上で「国産のヒノトリがそこに挑むことに価値がある」と強調する。=おわり
 (この連載は植木創太が担当しました)

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