日本の看護師、モルドバでウクライナ避難民の心と体を守る 「不条理な世の中に憤り」 ロシア侵攻100日

2022年6月3日 11時17分


仮設診療所で避難民の問診をする北川光希さん㊧=モルドバ・キシナウで(ピースウィンズ・ジャパン提供)

 ロシアの侵攻を受けるウクライナの隣国モルドバで、日本人看護師が避難民の診察に当たっている。海外人道支援を手掛けるNPO法人の派遣で、4月から現地で活動する北川光希さん(28)。日本ではへき地医療に携わり、新型コロナウイルス禍の医療崩壊も経験した。今度は戦争という人災に苦しむ市民を目の当たりにし、「不条理な世の中に憤りを感じる」と訴える。(佐藤航)

◆体の不調、背景に精神的負担

 ウクライナの南西に位置するモルドバの首都キシナウ(キシニョフ)。ウクライナ人向けの避難所の一角に、NPO法人「ピースウィンズ・ジャパン」(広島県神石高原町)が開いた仮設診療所がある。北川さんは同僚の医師と看護師とともに、1日で20人前後の患者を受け入れている。
 「ストレスや環境変化で体調を崩す人がすごく多い」。オンライン取材に応じた北川さんによると、体の不調を訴える人でも、背景には精神的な負担があるケースが多いという。「家の近くに爆弾を落とされた」「ウクライナに残してきた家族が気掛かりだ」。口々に苦境を訴える人々。中には、避難先で心筋梗塞を起こした男性もいる。

仮設診療所の前で患者の少年㊧とともに写真に収まる北川光希さん=モルドバ・キシナウで(ピースウィンズ・ジャパン提供)

 ロシアの侵攻開始から6月3日で100日。基礎疾患を抱える人にとって、長引く避難生活は命に関わる恐れもある。高血圧や糖尿病の薬が切れてしまい、相談に訪れる患者も少なくない。薬を買うお金がない人には、必要な分を無料で提供している。

◆離島、コロナ禍の医療も経験 異なるのは「人災」であること

 北川さんは避難民の不安を少しでも和らげようと、近くの市場で買った乾燥ラベンダーで匂い袋を作り、診察後にプレゼントしている。そんなささやかな心遣いでも喜んでくれる姿に、やるせなさを覚える時もある。「ウクライナが平和なままだったら、避けられた健康被害もあったと思う」
 昨年9月にピースウィンズ・ジャパンに入る前は、神戸市の病院で経験を積み、鹿児島県の屋久島で離島医療も経験した。コロナ禍では専門病棟や宿泊療養施設で勤務。療養施設では症状が悪化しても、なかなか病院に移れない患者を見てきた。「ニーズに応えたいけれど応えきれない歯がゆさは今と同じだった」
 だが、あの時と明らかに違うのは、今回は人の手によって起きた災いということだ。「人が引き起こした戦争で、深刻な身体トラブルや精神面の負担が生じている。こんなにも人を不幸にする戦争なんて、誰も望んでいないはずなのに」。今はただ、一刻も早い平和の訪れを願っている。

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