中絶合憲転換の草稿流出で信頼揺らぐ米最高裁 保守派判事増加で政治色強まる

2022年6月5日 06時00分

米連邦最高裁

 【ワシントン=浅井俊典】米連邦最高裁で人工妊娠中絶の合憲性が争われた訴訟の初稿が流出し、米社会に波紋が広がっている。最高裁はトランプ前政権下で保守派判事が多数となって以降、政治色が強まっており、中絶擁護派、反対派のいずれかが優位な判決を導くためにリークしたとの見方も。専門家らは司法への信頼低下を招く事態だと懸念を示す。

◆リベラル、保守、双方からのリーク説

 発端は米政治サイト、ポリティコの報道だった。ポリティコは5月初旬、保守派のアリート判事が起草した多数派意見の初稿を基に、過半数の判事が中絶を女性の権利と認めた1973年の「ロー対ウェード」判決を覆すことに「同意している」と報じた。
 中絶は米社会を二分する問題で、キリスト教右派の福音派の人々は胎児を守る立場から中絶に強く反対している。福音派を支持基盤とする共和党のトランプ前大統領はロー対ウェード判決を見直すため、在任中に保守派の判事3人を任命。現在の最高裁の構成は保守派6人対リベラル派3人で、保守優位の状況が続く。
 今回のリークは中絶擁護のリベラル派が世論の怒りをあおり、最高裁の最終判断を変えさせるためとの見方がある一方で、保守派がロー対ウェード判決の転換に賛成した判事5人を翻意させないために行ったとの指摘もある。報道後に判断を変えれば、判事自身の信用に傷がつくためだ。

◆司法改革求める声高まる可能性

 米CNNテレビによると、最高裁は情報を流出させた個人を特定するため、裁判所書記官の携帯電話記録を請求し「リーク元捜しを加速させている」という。
 最高裁が夏に出す予定の正式判断を待たずに途中経過が流出する事態に、元判事の一人は米紙ニューヨーク・タイムズの取材に「裁判所が政治的な機関であることを示してしまった悲しい一歩だ」と嘆いた。
 ハーバード大ケネディ行政大学院のマヤ・セン教授は「裁判所は国民から高い支持率を誇ってきたが、今回の事態で司法改革を求める声が高まる可能性がある」と見通した。

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