富士山、桜島の実物使い大規模実験 火山灰の怖さ裏付け

2022年6月5日 07時02分

◆10センチ超積もると 二駆車は動けず

火山灰を敷いた走行試験コース。奥が傾斜コース、手前がカーブのコース、その間にあるのが火山灰の深さを変えた直線コース=いずれも山梨県富士山科学研究所提供

 火山噴火であなどれないのが火山灰です。広い範囲に積もって交通など社会インフラに影響します。火山灰の積もった道を車でどれぐらい走れるかを調べる大規模な実験の結果が、5月下旬に開かれた日本地球惑星科学連合大会で報告されました。10センチを超えると普通の車の運転は難しくなりました。 (永井理)
 実験は山梨県富士山科学研究所(山梨県富士吉田市)や防災科学技術研究所(茨城県つくば市)などの研究グループが、富士吉田市の公園駐車場に十一種類のコースを設けて行いました。火山灰は、富士山や鹿児島県の桜島に堆積している実物を運んできました。火山灰の入手やコース造りは国土交通省の富士砂防事務所が協力しました。このような実験例はまだ少なく、防災計画は個別の噴火事例などを参考にすることが多いのです。

火山灰の積もったカーブを走り抜ける試験車

 コースは、平らな道、緩やかな坂道のほか、半径三十メートルのカーブもつくり、それぞれ前輪駆動車、後輪駆動車、四輪駆動車など計九種類の乗用車を走らせました。積もった灰の深さを変えたコースで各車両を何度も走らせたので、全体では試験は数百回にも及びました。

◆埋もれる

 火山灰の上をどれだけ走れるかという「走破試験」では、灰の深さを最大三十センチまで何通りか変えて調べました。四輪駆動はほぼ全部のコースを走れたものの、二輪駆動車では深さ十センチで走れなくなる車種が出てきて、十二センチではほぼ走れなくなりました。五メートルほど進むとタイヤが灰に埋もれて進めなくなのです。埋もれる様子も細かく調べられ、これまでの報告事例をより詳しく分析できるデータが得られました。
 チェーンを巻いてみても効果がなく、上り坂では逆に短い距離で止まってしまうケースもありました。チェーンをつけると、火山灰を後ろにかきだす力が大きくなって、タイヤが早く埋まってしまったと研究所では分析します。
 どのぐらいの距離で止まれるかという「制動試験」では、灰が一センチ積もった場合、通常の舗装道路に比べ、止まるまでの距離が最大約三倍に延びました。
 カーブを走る「旋回試験」では、灰が〇・一センチほど薄く積もった場合に、四十キロ以上を出すと曲がり切れずに滑ってコースからはみ出てしまいました。

◆体験

 今回は走行実験だけではなく、参加者を募って運転の体験会も開きました。火山灰の道を走る経験はめったにできません。実際にハンドルを握ると何が起こるのかを体験して、効果的な防災計画づくりに役立ててもらうためです。

タイヤが火山灰に埋もれて動けなくなった乗用車

 自治体や消防、警察、インフラ関連の企業など七十機関が参加。一般からも百人以上が集まり、火山灰のコースで走行を体験しました。
 一般参加したインフラ関連会社勤務の高須啓司さん(48)は「前輪駆動車で走ったが、灰が少し深くなると引っ張られるように車が止まり動かなくなった。坂道はぜんぜんだめだった。雪道とも違う感じ」とハンドルを握った様子を説明します。今回の体験で「火山灰が降ったとき車で移動するという選択肢はあり得ないことが分かった」といいます。
 山梨県富士山科学研究所の吉本充宏・主幹研究員は「火山灰は雪とは違って解けてなくなったりしない。どうしても取り除くことが必要。もし道路上に動けなくなった車があると作業が難しくなり、復旧が遅れてしまう」と指摘します。あちこちで復旧が遅れると物流が滞って食料などが運べなくなり、生活にも深刻な影響が出てきます。
 乗用車のほか、参加機関が持ち込んだ大型車や、消防車などの特殊な車もコースを走りました。これらの車両のデータは今後まとめる予定だといいます。

◆都心でも

 雪道用タイヤではどうか、通過する速度によって走行距離がどう変わるかなども調べる必要があるといいます。水蒸気噴火で飛び散る湿った火山灰は薄く積もるだけでスリップなどを引き起こすといいます。「過去には御嶽山の水蒸気爆発で出た火山灰でも車がスリップするなどの影響が出た。湿った火山灰が薄く積もった場合の実験も必要」と吉本さんは話します。
 内閣府の試算では、一七〇七年の宝永噴火クラスの噴火が起きた場合、風向きによっては東京の都心部に十センチ以上の火山灰が積もります。都内や神奈川県の広い範囲で四輪駆動以外の車が走れなくなるという予想も立てられ、首都機能への影響も懸念されます。交通への影響はまだはっきり分からない部分も多く、より効果的な防災計画を立てるために、詳しい実験でさらに調べる必要があるでしょう。

関連キーワード


おすすめ情報

科学の新着

記事一覧