音楽書と人文書の融合 出版社アルテスパブリッシング 創業15周年

2022年6月6日 07時30分

代表の木村元さん(左)と鈴木茂さん=東京都世田谷区で

 小規模ながら音楽を主なテーマにユニークな書籍を刊行し、「音楽書と人文書を融合した独自ジャンルを創出した」とも評される出版社アルテスパブリッシング(東京都世田谷区)が、創業15周年を迎えた。社員7人中、2人で編集を担い、ともに代表も務める鈴木茂さん(61)と木村元(げん)さん(57)は「音楽書を通じて本を読む楽しさを伝えたい」と変わらぬ意欲を燃やし続けている。 (清水祐樹)
 二人は音楽出版社「音楽之友社」の元同僚。鈴木さんが「もっと成長したい」と辞めた一年後、「好きな本をつくりたい」と考えていた木村さんも退社し、相談しているうちに一緒に出版社をつくることに。二〇〇七年四月にアルテスパブリッシングを設立した。
 「アルテス」はラテン語で「技芸」「学芸」の意味。世界のあらゆる音楽を対象とし、広く人文科学の諸分野にアプローチしたいとの思いを込めた。
 鈴木さんがポピュラー、木村さんがクラシックと好きなジャンルが異なっていたことも奏功。「音楽ファンはもちろん、詳しくなくても楽しめる本」を目指し、「お互い、やりたい企画はやる」のが編集方針だ。
 年間二十点ほど、これまでに計二百点超を刊行し、音楽ライター長谷川町蔵さんと米文学者大和田俊之さんが対談形式で楽しみ方を伝える『文化系のためのヒップホップ入門』や、ブロードキャスターのピーター・バラカンさんによるソウルミュージックガイドの名著『魂(ソウル)のゆくえ』の新版、歴史と社会の中から音楽をとらえて考察した『クラシックでわかる世界史』(西原稔さん著)などがヒット。音楽評論家片山杜秀(もりひで)さんが新譜CDから独自の視点で時代を切った『音盤考現学』『音盤博物誌』はサントリー学芸賞と吉田秀和賞を受賞した。

話題を集めた既刊本 

 大手取次との取引はなく、基本的には書店からの注文に応じて卸す。鈴木さんは「インターネットもあるし、小規模出版の流通ルートも整備されてきた」と説明。初版の目安は二千部程度で「少部数の分、逆に用紙などは良いものが使える」と、品質にこだわる。
 音楽書以外にアートやデザイン、文芸なども幅広く取り扱い、思想家内田樹(たつる)さんの文芸評論『村上春樹にご用心』や、編集入門書『はじめての編集』(菅付(すがつけ)雅信さん著)といった人気作も生まれた。
 片山さんや内田さんの著書や、音楽を切り口に特撮作品を読み解いた『ウルトラセブンが「音楽」を教えてくれた』(青山通さん著)などは、大手出版社から文庫化された。「手掛けた書籍の価値が認められ、ありがたい」と木村さん。
 人脈が広がり、多彩な編集者や書き手から依頼が相次ぐように。今年四月には、翻訳家柴田元幸さんから打診があった、英国人作家マグナス・ミルズの小説『鑑識レコード倶楽部』を柴田さんの訳で出版。持ち寄ったレコードをただ黙って聴くだけの倶楽部を巡る物語だが、現代社会の寓話(ぐうわ)とも受け取れる独特のユーモアについ引き込まれる。
 他の社員は営業や経理などを担当。「刊行点数とともに業務が増えても、簡単に人手は増やせない」のが悩みの種だが、次世代を意識したアイデアも。一年間に出版された音楽書を対象とした「音楽本大賞」を創設し、来春の創業記念日に最初の大賞を発表する予定だ。
 二人は「音楽書は音楽好きのためだけの本ではない。もっと広く読んでもらいたい」と願っている。

関連キーワード


おすすめ情報

東京ブックカフェの新着

記事一覧