<書評>『天皇・コロナ・ポピュリズム 昭和史から見る現代日本』筒井清忠 著

2022年6月12日 07時00分

◆「下からの同調圧力」通底
[評]御厨貴(政治学者)

 昭和史の実証的研究を精力的に行っている著者が、歴史と現代を往還するエッセーの分野に進出したなかなかに読ませる作品集である。全部で十章からなるが、天皇制やポピュリズムを話題にしたものが多い。
 天皇について、バジョット、そしてジョージ五世、さらに昭和天皇、次いで小泉信三、ひいては上皇を貫くイギリス流の「警告」型君主のコースか、福沢諭吉『帝室論』の温和な脱政治的日本文化型君主のコースか、というこれからの天皇制の選択肢を前に思わず考え込んでしまう。また、近衛文麿と宮中グループが貴族的「先手論」と「革新的平等主義論」に流されつつ昭和戦前史を形作っていったとの指摘も首肯できる。
 実はそうした戦前史を決定づける役割を果たした要因として、次第に政治の主流と化す「メディア」の存在と「下からの同調圧力」の影響力があげられる。戦前史いや戦後史も「メディア」報道のかなりステレオタイプ化したポピュリズム的傾向から脱し得ない。戦時下日本の個人生活への規制も、コロナ禍の菅内閣でみられた自粛生活も、上からでなく「下からの同調圧力」に皆従っているにすぎないのだ。
 力作は関東大震災における「ポピュリズム」型政治家たる後藤新平の挫折の章である。関東大震災の復興を手掛かりに政界再編を試みた後藤新平が、その双方に失敗し、失脚する。ある問題の発生を奇貨として長年できなかった課題を拙速で実現しようとするのは、実は火事場ドロボーに等しいと、同時代のジャーナリスト馬場恒吾は看破している。現代政治の行く末にも、そんな例はちらほら見えるような気がする。
 さて著者の筆は「昭和軍国主義」、そして「太平洋戦争」にみられる軍へのアプローチに至って鋭い。軍国主義の中にも見え隠れするポピュリズム。表層はいかに変わろうとも、戦前史と戦後史を通底するいくつかの概念や思想を今後とも著者には歴史エッセーの中で論じてもらいたい。
(ちくま新書・880円)
1948年生まれ。帝京大文学部長。『昭和戦前期の政党政治』『戦前日本のポピュリズム』。

◆もう1冊

半藤一利、保阪正康著『そして、メディアは日本を戦争に導いた』(文春文庫)

関連キーワード


おすすめ情報

本の新着

記事一覧