<ぎろんの森>暮らしを見ずに語るな

2022年6月11日 08時03分
 耳を疑う発言でした。日銀の黒田東彦総裁が六日の講演で「家計の値上げ許容度も高まっている」と述べたことです。講演内容を翌日の朝刊で報じると、読者から「国民の生活の様子が全く理解できていない」との批判が相次いで届きました。
 中には「お金持ちの目線からしか金融政策を語れない。総裁の資格はない」「こんな愚かなことを言う日銀総裁は即刻解任すべきだ」など進退への言及もありました。
 生活者としてこうした反発は当然です。私たち論説室も読者の怒りを共有します。
 本紙は八日付の社説「日銀総裁発言 『民の竈(かまど)』が見えぬのか」で「賃上げの実現に力点があるとしても、物価上昇を許容しているというのは勝手な解釈だ」「多くの家庭が食費や光熱費などを切り詰め、耐え忍んでいるのが実態だ」と指摘し、黒田氏に「まず小売店に自ら出向いて人々の話を直接聞くべきだ」と求めました。
 黒田氏がこの発言に先立ち国会で「買い物は家内に任せている」と述べていたことも問題です。ジェンダーの観点とは別に、生活の苦しい実態が顧みられないまま、家計の値上げ許容という誤った前提で、金融政策が決められていたことになるからです。
 国民からの厳しい批判に抗しきれず、黒田氏は七日「誤解を招く表現で申し訳ない」と陳謝したのに続き、八日には「表現は全く適切でなかった」と発言を撤回しました。
 黒田氏の日銀総裁就任は第二次安倍内閣当時の二〇一三年。アベノミクス三本の矢のうち第一の大胆な金融政策=金融緩和を担いました。
 一時は効果があったのかもしれませんが、コロナ禍もあり、国民の暮らしぶりがよくなった実感はありません。
 最近の急激な円安も金融緩和継続によるもので、アベノミクスが政策の選択肢を狭めた、との見方もあります。
 黒田氏は来年四月に任期を終えますが、日銀総裁発言だけでなく安倍政権以来の経済政策についても厳しく検証し続けたいと考えます。(と)

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