家族にうそをつき領土防衛隊に志願した自営業男性 ブチャ近郊で「今日が最後の日かも」と銃を抱いて眠った

2022年6月11日 18時00分
 【ワシントン=吉田通夫】ウクライナの首都キーウ(キエフ)市郊外のブチャ近くで、一般人らでつくる義勇兵組織「領土防衛隊」に志願した自営業ドミトリー・キリリュクさん(55)が、本紙のオンライン取材で、志願したときの思いなどを語った。実際に交戦することはなかったが、周辺ではロシア軍による市民の大量虐殺疑惑もあり、「ロシアが完全に降伏し非武装化するまで戦わなければならない」と憤慨した。

 ウクライナ領土防衛隊 2014年のロシアによるウクライナ南部クリミア侵攻を機に設立された義勇兵組織。各地域ごとに部隊が配置され、軍と連携して後方支援や警備などに当たる。予備役が対象だったが、今回の侵攻を機に一般市民も入隊可能になり、ウクライナ国家警備隊によると3月時点で10万人が入隊。ボクシング元世界王者ら著名人も名を連ねる。海外からの義勇兵でつくる外国人部隊も新設し、52カ国から約2万人が集まっているとされる。

任務に当たるドミトリー・キリリュクさん=本人提供

 キリリュクさんは侵攻が始まるまでは個人で貿易や不動産業を手掛け、どう稼ぐかばかりを考えていた。しかし、侵攻開始後は「国を守ることしか考えられなくなった」と振り返る。
 「買い物に行く」。侵攻開始から2日後の2月26日、キリリュクさんは家族にうそをついて、軍に出向いた。1984年から86年まで軍に所属していたため、予備役として前線に出るためだ。担当者から「荷物をまとめて出動への準備を」と言われたが、年齢のせいか1週間ほど待っても連絡がなく、「役に立つため何かしたい」と自宅周辺の地域を管轄する領土防衛隊に志願した。
 その後1カ月ほどは隊の任務にかかりきり。ブチャ近くの村で、武器庫の警備などに当たった。ロシア軍は一時キーウ近郊に迫り「いつでも戦えるよう準備した」。砲弾の音が響く中で24時間以上同じ場所にとどまり、銃を抱いて屋外で寝たこともあった。ロシア軍が4月上旬に撤退したため交戦することはなかったが、「今日が自分の最後の日になるかもしれないと思うと、とても怖かった」

オンライン取材に答えるドミトリー・キリリュクさん

 ロシア軍の撤退後は防衛隊の任務は減り、少しずつ以前の仕事に戻り始めた。しかし、周辺では多くの市民が遺体で見つかり、ロシア軍による虐殺の疑いが持たれている。キリリュクさんは強く憤り、「この戦争がロシアの降伏で終わらないなら、次の戦争が起きる。われわれが勝てなければ、子どもたちが戦争を続けることになる」と強調。深い禍根になったことを示した。
 領土防衛隊はウクライナ国内の各地域ごとに部隊が配置されており、外国人義勇兵による部隊も新設。戦闘が激化する東部地域を中心に、警備のほか軍の後方支援などに当たっている。

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