国会で核共有議論、不安募らす被爆者 「武力でなく外交で平和実現を」<参院選・くらしの現在地②>

2022年6月16日 06時00分

被爆した当時の様子や核兵器の廃絶について話す家島昌志さん=東京都中野区で

 「核兵器は非人道性の極み。この世に存在してはいけないんだ」。広島市出身の被爆者、家島いえしま昌志さん(80)=東京都中野区=は、うめくようにつぶやいた。ロシアのウクライナ侵攻を受け、米国の核兵器を日本で共同運用する「核共有論」まで語られるようになった国会の勇ましい論議を聞いて、逆に不安を募らせる。

◆戦後77年、年々減る被爆体験者「惨禍語り継がねば」

 1945年8月6日、米軍が広島に原爆を投下した時は3歳で、爆心地から2キロ余りの自宅で両親や妹と被爆。当時の記憶はおぼろげだが、やけどの強烈な異臭と真っ赤に燃える裏山は脳裏に焼きついている。爆風で割れた無数のガラス片が刺さった母は「はりねずみのような姿になった」と父から何度も聞いた。
 母は一命を取り留めたが、父は胃や上あごにがんを患い、50代で亡くなった。家島さんも若いころから十二指腸潰瘍などの病に悩まされ、5年前には甲状腺がんの手術を受けた。「原爆は数10年にわたり人々を苦しめる」と唇をかむ。
 戦後77年で被爆体験者は年々減っている。「惨禍を語り継がねば」という使命感で、退職後から証言を続けている。平和なくらしが揺らいでいる今だからこそ思う。「武力ではなく、外交で平和を実現する力を強化すべきではないのでしょうか」

◆核禁止条約締約国会議にオブザーバー参加も見送り

 ロシアのプーチン大統領がウクライナ侵攻で核兵器の使用を示唆し、核の脅威がこれまで以上に深刻さを増す中、被爆者らは、核兵器を史上初めて違法で非人道的と定めた核兵器禁止条約に望みを託す。オーストリアで21日に開幕する条約の第1回締約国会議には、広島で被爆した家島さんも「核廃絶への確かな道筋を作りたい」と日本原水爆被害者団体協議会(被団協)の一員としてオブザーバー参加。各国の政府関係者らに被爆体験を伝えるつもりだ。
 日本政府は、ロシアや米国といった核保有国が条約に加わっていないことを理由に「現実的ではない」と加盟を否定する。
 広島選出の岸田文雄首相は「核廃絶はライフワーク」と繰り返すが、15日の記者会見で「米国との信頼関係の下に現実的な取り組みを進めるべきだ」と強調。締約国会議への政府要人のオブザーバー参加の見送りを表明した。

◆「戦争の反省に立つ憲法の理念思い起こして」

 ロシアのウクライナ侵攻に加え、中国の軍事力増強や北朝鮮の核・ミサイル開発で安全保障環境は悪化している。そんな地域情勢を踏まえ、首相は5月の日米首脳会談で、米国が核兵器と通常戦力で日本防衛に関与する「拡大抑止」の重要性を確認。米国の「核の傘」への依存を強めている。
 首相はバイデン大統領に「防衛費の相当な増額を確保する」と表明し、国会での議論もそこそこに防衛費の大幅増を「公約」した。憲法に基づく専守防衛を逸脱しかねない「敵基地攻撃能力」の保有を巡っても「あらゆる選択肢を排除しない」と説明した。
 米国の核兵器を日本で共同運用する「核共有論」に関しては、安倍晋三元首相が「タブー視してはならない」と主張。自民党の高市早苗政調会長ら保守派も同調した。政府は「非核3原則」を理由に否定したが、野党の日本維新の会も議論する必要性を訴えている。
 家島さんは「日本はロシアや中国、北朝鮮に近く、ある程度の防衛力が必要であることは否定しない」と抑止力に一定の理解を示す。それでも、武力には武力で対抗するという威勢のいい主張が広がる現状は気掛かりでならない。「軍事力の強化の競争に終わりはなく、核を含む抑止論は空論にすぎない。戦争の反省を踏まえて制定された憲法の理念を思い起こしてほしい」と与野党の政治家に呼び掛けた。(大野暢子、村上一樹)

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