カンヌ受賞 注目の2作品 2監督に聞く

2022年6月16日 07時54分
 5月のカンヌ国際映画祭では、日本人監督の2作品で俳優賞を受けたり、特別表彰されたりした。両作品とも間もなくの劇場公開。監督2人に製作の経緯、思いなどを聞いた。

◆「ベイビー・ブローカー」是枝監督 赤ちゃんポスト巡る 是枝流、家族の物語

 韓国人俳優ソン・ガンホ(55)が男優賞に輝いた、是枝裕和監督(60)の韓国映画「ベイビー・ブローカー」(24日公開)は、親が諸事情で育てることができない子どもを託す「赤ちゃんポスト」を巡る不思議な人間模様から小さな命の尊さを問う内容だ。家族の物語がまたもカンヌで絶賛された是枝監督。本作は新たな境地を開く1本でもあったようだ。 (藤原哲也)
 「親に捨てられた子どもが、生まれてきて良かったかどうかの確信が持てずに大人になっていくという声を聞き、その子たちに掛けてあげる言葉はないか、と考えた。この映画が答えになっているかどうか分からないが、そのことを考える映画にはしたかった」
 構想は、赤ちゃんの取り違えを扱った「そして父になる」(2013年)のころからあった。赤ちゃんポストは日本より韓国の方が受け入れ数が多く、児童養護施設などで取材を重ねる中で、先の思いを抱くようになったという。海外の映画祭で交流があったソンらの出演を想定し物語をつくったが、カンヌの最高賞、パルムドールを受賞した「万引き家族」(18年)の撮影などを挟み、20年に本格始動した。

映画「ベイビー・ブローカー」から。主演のソン・ガンホ(左から3人目) ©2022 ZIP CINEMA & CJ ENM Co., Ltd., ALL RIGHTS RESERVED

 犯罪でつながる家族を扱った「万引き家族」、育児放棄事件をモチーフに柳楽優弥がカンヌで男優賞を受賞した「誰も知らない」(04年)でも描かれた、境遇に恵まれない子どもたちへの思いは不変だ。「たぶん日本では書かない。自分なりに考えて、それを言うしかないと思った」と語った、子どもが生まれたことへの感謝を表す真っすぐなせりふなど、過去の作品にはない形で映し出される。受賞により是枝流の家族の物語は海外製作でも普遍的なことを証明した。
 今作で伝えたい思いを尋ねると、「大原則として、誰かを元気づけたり勇気づけたりするために撮っていない。ただ、誰かの顔を浮かべながら撮ることはいつもやっている。今回でいうと、あの(韓国の)養護施設出身の子」との答え。ドキュメンタリー出身の監督らしい取材対象への真摯(しんし)な思いが伝わってきた。
 ◇ 
 東京・TOHOシネマズ日比谷などで上映予定。
<あらすじ> クリーニング店を営むサンヒョン(ソン)は借金苦で、赤ちゃんポストのある施設で働く児童養護施設出身のドンス(カン・ドンウォン)と、預けられた赤ちゃんを連れ去って売る裏稼業をしていた。ある日、連れ去った赤ちゃんの母親が現れ、成り行きで3人は養父母探しの旅に出る。彼らをマークしていた刑事スジン(ペ・ドゥナ)らは現行犯逮捕しようと後を追う。

◆日本でも「撮影」改革を 是枝監督のつぶやき

 是枝監督の海外映画製作は日仏合作の「真実」(19年)に次いで2作目。本作はロードムービーのため、各地で新型コロナウイルスの感染対策に神経を使ったが、撮影日程やスタッフの数に余裕があったため撮影は快適だったという。「韓国は働き方改革が終わっていた。日本でも環境改善できるように働き掛けをしたい」。現場の格差に危機感を持ったと明かす。

◆「PLAN 75」早川監督 誰も排除しない社会、やがて幸せな老い

 新人監督賞カメラドールの次点にあたる特別表彰を受けた早川千絵監督。快挙を達成した長編デビュー作「PLAN 75」は、社会で居場所を失いつつある75歳以上の後期高齢者の姿を描いた作品だ。早川監督は「誰も排除しない社会であれば、幸せな老いを迎えられる」と力を込める。 (花井康子)
 超高齢化の解決策として満75歳から自ら生死を選択できる架空の制度「プラン75」が施行された日本が舞台。ミチ(倍賞千恵子)は夫と死別後、ホテルの客室清掃の仕事をしながら独り暮らしを続けてきたが、78歳の高齢が理由で失職する。世間は制度を歓迎ムード、同世代がそれぞれに選択していく中、ミチは制度の利用=死を選ぶことを決心する…。

主人公ミチを演じる倍賞千恵子 ©2022『PLAN 75』製作委員会/Urban Factory/Fusee

 「『自己責任』という言葉がよく使われるようになり、日本の社会全体が不寛容になっているような気がしていた」と早川監督。2016年7月、相模原市の障害者施設「津久井やまゆり園」で起きた入所者らの殺傷事件が端緒となり「不寛容な社会の中で、人が生きるということを全肯定する」作品づくりに、是枝裕和監督が18年に総合監修を務めたオムニバス映画の1編を再構築した。
 役所の制度の申請窓口で働くヒロム(磯村勇斗)、死を選んだお年寄りをサポートする電話相談係の瑶子(河合優実)、施設で最期を迎える人たちを世話する介護職のフィリピン人など、業務に従事する若者たちの心情も描いた。「見方によって受け止めがかなり違ってくる。見た人も共作者となってもらえるような作品だと思う」と語る。
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 17日公開。東京・新宿ピカデリーなどで上映予定。

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