<老いるマンション>所有者不存在で組合苦慮 相続人おらず「管理人」選任

2022年6月16日 10時18分
 古い分譲マンションで目立つのが、住民のいない空き部屋だ。管理費などの滞納が生じたり、長期間使われないことで設備が劣化したりと、物件全体の維持管理において悩ましい。中には、相続放棄によって住民どころか区分所有者すら「不存在」となり、管理組合が対応に苦慮するケースもある。 (河郷丈史)

■20年ほど空室

 「二十年ほど管理費などを滞納している空き部屋がある」。マンション管理士の加藤真澄さん(63)は、愛知県内のマンション管理組合の役員からそう打ち明けられた。区分所有者の男性が亡くなった後、住民がいない状態で管理費や修繕積立金、水道料金が支払われていないという。
 このマンションは全約六十戸あり、築四十年以上が経過。住民も高齢化して組合役員の担い手確保が難しく、二〇一九年春からマンション管理士らでつくるNPO法人「マンション管理者管理方式推進機構」(名古屋市)に管理者(理事長)業務を任せている。同機構副理事長の加藤さんが担当になり、「滞納が続けば組合の収入が不足し、火事や水漏れなどの事態にも対応できない」と空き部屋の解消に乗り出すことを決めた。
 この部屋を巡っては以前、組合側が亡くなった所有者の息子と連絡を取り、相続放棄をしたと聞いていた。他にも相続人になり得る親族はいるが、それ以上の調査はせず、役員が一年ごとに入れ替わる中、状況がつかめないまま時が過ぎてきたという。
 加藤さんはまず相続人を突き止めるため、機構メンバーの弁護士に調査を依頼。戸籍などから所有者の子ども、配偶者、きょうだいの計六人全員が相続を放棄し、相続人が誰もいないことが分かった。所有者不存在のままでは物件の売却ができず、空き部屋は解消されない。管理組合として取った手段が、民法に基づく「相続財産管理人」の選任手続きだった。
 身寄りのない人が亡くなって戸籍上の相続人がいなかったり、相続放棄で相続人がいなかったりする場合、その財産の利害関係人が家庭裁判所に申し立てて認められれば、弁護士らが相続財産管理人に選任され、状況に応じて売却などができるようになる。管理費などを滞納されている管理組合は利害関係人になり得るため、申し立てが可能だ。

「相続放棄」の文字が並ぶ相続人の関係図(一部画像処理)

 ただ、このマンションは築年数が古い上、駅から徒歩で二十分かかり、部屋は三階にあるのにエレベーターもない。空き部屋の状態が長く続いていたことも資産評価を下げ、滞納分を回収できるほどの金額で売れない可能性もあった。加藤さんは「所有者不存在が解消されれば滞納はなくなり、維持管理においてプラスになる」と見込んで申し立ての準備を進め、二〇年十月、相続財産管理人の弁護士が選任された。
 一方で、加藤さんは不動産業者に声を掛けて買い手を探し、運良く前向きな業者が見つかった。問題は、滞納分をどうするかだった。

■約300万円を負担

 区分所有法上、前の所有者の滞納分は次の所有者に請求できるが、加藤さんはその業者に滞納分の支払いを求めれば空き部屋は売れないと判断。管理組合の臨時総会を開いて組合員に事情を説明し、滞納分を全額免除する債権放棄の承認を得た。二一年十月、相続財産管理人を通じて物件が業者に引き渡された。
 申し立ての際に管理人報酬などとして家裁に納めた予納金や相続人の調査費用、滞納分約百八十万円などを含めると、管理組合の負担額は約三百万円に膨らんだ。機構理事長の山本逸男さん(81)は「組合役員が順送りで交代する中、責任の所在があいまいになり問題が先送りされてきた」と指摘。少子高齢化などで相続人の減少も見込まれる中、「今回のような事例は今後、増えてくるのでは」と警鐘を鳴らす。

■所在不明・不通年数経過ほど高率

 空き部屋の割合は古い物件ほど高い傾向にあり、所有者と連絡が取れないケースも少なくない。国の2018年度の調査によると、所在不明・連絡先不通の戸数割合が2割を超えるマンションは1979年以前築で5.3%に上った。
 大手管理会社の大和ライフネクストのマンションみらい価値研究所によると、同社が管理する約4000の管理組合で2018〜21年に相続人調査をした事例は27件、相続財産管理人選任の申し立ては9件だった。
 研究員の大野稚佳子さんは「所有者不存在の問題は解決するまでに年単位の時間を要する。役員が輪番制の場合は方針や情報の引き継ぎも重要だ」と話す。
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