<わけあり記者がいく>ITと手術で反転攻勢 「生きる意味」かけた挑戦

2022年6月16日 10時26分
 「わけあり」な人たちも「人材」になるには、新しいものにひるんではならない。果敢に挑戦する姿を世に示すのだ。あなた方が可能性を開いた分、人類は進歩するのだから−。
 「わけあり記者」こと私、三浦耕喜(52)も目下、二つのことに挑戦している。一つは仕事でIT機器を使いこなすこと。もう一つは脳の手術を受け、進行するパーキンソン病に反転攻勢をかけることだ。
 前者は、ハンディのある人が生活と仕事との両立を図るためには、進歩著しいIT機器が必須の道具だということだ。それによって障害者も移動のストレスから解放され、いわゆる「健常者」と対等に働ける。「わけ」を理由に保護を受けることに甘んじる姿勢は、もはや説得力を失っている。
 私も、身の危機をIT機器に救われている。前々回(四月十三日付)から、外出中に体が動かなくなった場合、どうSOSを発するか、自身の体験を軸に書いてきた。その中で紹介したのは、つえに付けたヘルプマークの裏に緊急連絡先を書くなど、アナログ的な対策だったが、実際に救援を要請するために用いていたのはスマートフォンだ。
 先日もそうだった。風に夏の気配を感じる休日、私は運動がてら、趣味である百円ショップのパトロールに出掛けた。家から自転車で十分ほど。無事にたどり着き、自転車を置いたところで足が動かなくなった。
 私は早々に両膝をつき、スマホを地面に置いた。妻に連絡すべく、ロック解除の番号を打ち始める。緊急連絡機能があれば、ロック解除の操作は必要ない。私が用いるスマホの場合、四回の画面タッチで妻につながった。
 大の大人が地面に立て膝で前かがみになっているのだ。「どうしました?」。通りがかりの女性が驚いて私の傍らに寄ってきた。スマホに気づくと、スピーカー機能を使って、まともに話せない私に代わり、妻に状況を説明して呼び寄せてくれた。
 一方、転倒して頭を打ち、自分で操作できない場合もある。それに対応する腕時計も登場している。倒れる衝撃を感知し、緊急連絡先に自動で通報する仕組み。誤報を避けるため、衝撃後、アラーム音や振動で持ち主の反応を見る。反応がなければ通報してくれる。
 おしなべて、IT機器はわけあり人材にとって頼もしい存在だ。私が手術を受ける決意を固めたDBS(脳深部刺激療法)も、体内にコンピューターを埋め込むようなもの。脳波を測定し、脳内に設置した電極を通じて適切な刺激を与えることで、パーキンソン病の症状を抑えるという。
 躊躇(ちゅうちょ)はあった。読者からも案じる手紙を頂戴した。しかし、私の症状は「オン・オフ」の日内変動が激しくなってきた=図。日に何度も大波に襲われては、まともな社会生活が営めるはずもない。
 人工多能性幹細胞(iPS細胞)を用いる治験も行われているが、いつ手の届くところに来るのか。病は確実に進行する。私はただ生きていたいわけではない。旧友を訪ね、夜空の星を仰ぎたいのだ。懸命に生きる人を探し、東へ西へ駆け回りたいのだ。そんなことができる奇跡と喜びを文字にしたいのだ。
 私は今、最初のステップの検査入院に入っている。その模様は後日。
<パーキンソン病> 脳内の神経伝達物質ドーパミンを作る細胞が壊れ、手足の震えや体のこわばりが起きる。多くが50代以上で発症し、国内の患者数は約16万人。厚生労働省の指定難病で、根治療法はなく、ドーパミンを補う服薬が治療の中心。服薬は長期にわたり、経済的負担も大きい。
<みうら・こうき> 1970年、岐阜県生まれ。92年、中日新聞社入社。政治部、ベルリン特派員などを経て現在、編集委員。42歳のとき過労で休職し、その後、両親が要介護に。自らもパーキンソン病を発病した。事情を抱えながら働く「わけあり人材」を自称。

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