女性だけに「ガラスの天井」…差別があった医学部入試 平等な社会に変革いまこそ<参院選・くらしの現在地③>

2022年6月17日 06時00分
 「まさか、女性だからと差別されていたなんて…」
 私大医学部を受験した20代女性は今もショックを隠さない。「学力で公平に判断されると信じてきた。裏切られ、がっかりした」
 2018年、東京医科大など10大学の医学部入試で女性受験生らを不利に扱う得点操作などが発覚した。
 医療関係者の間からは「妊娠や出産、育児があるから、女性医師数の抑制は必要悪だ」などと正当化する声も漏れたが、同大の不正入試を調べた内部調査委員会は「重大な女性差別だ」と厳しく批判。「女性医師のライフイベントの問題とすり替えることなく、男性医師も含めた働き方改革を」と一般社団法人「日本女性医療者連合」(東京)が声明を出すなど、ジェンダー不平等の是正を進めるべきだとの見方が広がった。
 一連の不正入試のうち、順天堂大(東京)医学部を相手取った訴訟では5月19日、東京地裁が「医師の資質や学力の評価と直接の関係がなく、不合理で差別的」と大学を非難。冒頭の女性を含む受験生13人に慰謝料を支払うよう命じ、確定した。
 文部科学省によれば、全国81大学の医学部医学科入試の男女別合格率は、21年度に初めて女性が男性を上回った。
 浪人後に別の医学部に入った女性は「不正が今も続いていたらと思うと、ゾッとする。次の世代が性で差別されないように」と願う。

◆女性医師、整形外科や外科は10人に1人もいない

日本女性医療者連合の考え方について説明する吉野一枝さん=東京都内で

 医学部入試の性差別は、2018年に表沙汰になる前からささやかれてきた。17年には「日本女性医療者連合」(JAMP)が医学部の男女別合格率を独自に分析し、入試で女性を抑制している可能性を示唆。女性医師を増やさないという「ガラスの天井」があると指摘した。
 理事で産婦人科医の吉野一枝さん(67)は「医師志望の女性が増えている実感があったのに、ずっと女性医師の割合が増えない。おかしい、という声が上がっていた」と振り返る。
 国内の女性医師の割合は16年時点で21.1%。英国45.9%、イタリア40.7%、米国34.6%(男女共同参画白書18年版)に比べて低い。診療科による差も目立ち、整形外科や外科は1割に満たない。
 背景には、長時間労働が常態化した男性中心の職場環境もある。JAMPは19年、医学部入試の公正化や過重労働解消などの提言を発表。業務の見直しや複数医師での共働、医学部教授や病院管理職の女性割合を30%以上に増やすことなどを盛り込んだ。
 女性が増えることで、これまでと違った視点から治療や研究が進み、医療の安全や質の向上につながる期待がある。吉野さんは「女性が意思決定の場に少ないから差別的な構造が変わらない。ダイバーシティー(多様性)の推進なくして、医師不足や過重労働などの課題も解決しないと私たちは考えている」と強調する。
 もっともジェンダー不平等は医療界だけではない。世界経済フォーラムの男女格差の指標「ジェンダー・ギャップ指数」21年版で、日本は世界156カ国中120位にとどまる。政府は今月決定した「女性活躍・男女共同参画の重点方針2022」で、男性の家庭・地域社会での活躍を掲げ、長時間労働慣行の是正を挙げている。
 京都産業大の伊藤公雄教授(ジェンダー論)は「他国が社会を多様化し、柔軟に運営するよう変わる中で、日本は1970年代の高度経済成長期に築いた男性主導のシステムを維持してきた」と分析。変革しなければ社会は衰退していくと訴える。「システムを作り替えるには、女性を意思決定の場に意識的に加えること、女性の活躍を可視化することが重要だ」(奥野斐)

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